#水星の魔女 、ミオリネがスレッタのために奔走する理由、色々あるだろうけど「大切なものを奪われたり否定されたりする辛さを知っているから」というのが大きい気がしてきた 以下追記
ミオリネには大切なものがあった。ピアノや母、温室の植物などだ。
しかし、ピアノをやめさせたり母の死を軽んじた(ように見えた)父や、園芸を「地球の真似事」と嘲笑する周囲の人間たちによって、彼女の「大切なもの」は毀損され、貶められてきた。
ミオリネにとって、それがどんなに腹立たしく悲しいことかは、日頃の彼女の苛烈さに反映されていると思う。
そんなミオリネが、スレッタと出会った。
スレッタはミオリネの大切なもの(トマト)を思いっきり肯定した。あまつさえ、温室を壊したグエルに謝罪を求めて決闘することにもなった。
この時点でミオリネからスレッタへの印象は悪くなかった(「グエルたちよりずっとマシ」)のだろうが、彼女がスレッタの「花嫁」になり、行動を共にするようになったことで、さらに変化が訪れる。
まず、ミオリネがエアリアルに搭乗して決闘に臨んだ時、スレッタが乱入・頭突きをして、今までにない強さで「エアリアルは私の家族だ」と叫んだことで、ミオリネはスレッタにとってエアリアルが「大切なもの」だと感じたのだと思う。
だから、自分が発端となった決闘騒ぎのせいでエアリアルが廃棄処分になるかもしれないと知った時、地球行きの絶好のチャンスを捨ててまでスレッタを助けたのだろう。
また、スレッタから水星に学校を作りたいという夢を語られ、そのために頑張っていると知ったことで、彼女も自分と同じように大切な夢を持っていると知り、スレッタ自身が過酷な試験に心折れてもなお叱咤激励した(スレッタを自分と重ねていた部分もあったのかもしれない)。
スレッタがエランに惹かれている様子を見ても何だかんだで一定の理解を示していたのも、(好感を持っている)人が誰かを大切に思う気持ちを尊重しようという姿勢の現れだったのだろう。
そして、インキュベーション会場での大立ち回り。母親に助けを求めても返事がない、孤立無援のスレッタに、ミオリネはかつての自分の姿を見たのかもしれない。大切なものを奪われる痛み、大切なものを分かち合ってくれる人がいない悲しみを知っているからこそ、ミオリネは手を挙げたのだと思う。
もっとも、それだけではないかもしれない。あの時点で、ミオリネの中でスレッタ(がエアリアルを大切に思う気持ちや彼女の夢)は、既に彼女自身の「大切なもの」になっていたのではないか。新しく生まれた大切なものを守りたかったからこそ、今までの自分の言動(それらは今までの「大切なもの」をないがしろにされたことへの怒りの表明だったのではないか)を枉げてでも父親に頭を下げて戦う覚悟を示せたのではないか。
ミオリネにとって、スレッタのために動くことは決して「花婿への献身」ではない。それは、「大切なもの」をないがしろにされてきた自分の傷つきを癒やす過程であり、「大切なもの」を持つスレッタへの共感であり、彼女を大切に思う気持ちを貫くためのミオリネ自身の意志なのだと思う。