問いかけられた愛――シャニマスエイプリルフールコミュ「Secret×Rose」に頭を抱えたという話
初出:2020年4月1日Privatterに投稿
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これはエイプリルフールであって、一夜の夢というか妄想の類のようなものなのだけれども、そうだとしてもこのゲームの中でこのコミュをやることには意味が発生してしまうことを思って頭を抱えてしまう。
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すでに別のふせったーで書いた(https://fusetter.com/tw/40fx9vRi#all)んだけど、個別のアイドルのシークレットで「どうして私を置いていってしまったの?」「先にいってしまったのは君のほうで」というのはロミオとジュリエットの最後の行き違いになった死を指している。ロミオは仮死状態になったジュリエットを見て本当に死んでしまったと思って毒を飲んで死に、その後に仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオの死を目の当たりにして自らも自殺した。ジュリエットが仮死状態になったのは、ロミオと一緒になるための計略だったのだが、それがロミオに伝わっていなかった……
そうだとすると、シークレットでの会話は、ロミオとジュリエットの死後の会話だということになる。ロミオとジュリエットの霊が、アイドル(生徒)とプロデューサー(先生)に乗り移っているのかもしれない。2人に乗り移ることで、ロミオとジュリエットは死後にやっと再会することができた。Juliet×Rootでは、アイドル(生徒)に女性の霊らしきものが乗り移ったり、プロデューサー(先生)が女性の霊らしきものにおそわれたりする。Romeo×Rootでは、逆にプロデューサー(先生)に男性の霊が乗り移ったかのようになりアイドル(生徒)をわがものにしようとする。これらの霊が、Secret×Rootで再会することができたのだと思う。確証はないんだけどそう読むと私的には整合性が感じられる。
はづきさんは最初からロミオとジュリエットの霊を再会させることを目的として、その触媒となる人間を探していたのかもしれない。そうだとすれば鍵を持っていたこともローズティーを飲ませたことも納得がいく。そこでプロデューサー(先生)がターゲットになった。だから「ごめんなさい。ありがとう」なのかもしれない。
イルミネの分岐の方ではづきさんらしき人物の声がぶつ切りで聞こえてくるが、ここで何を言っているのか分かれば真相に近づくことができると思う。「すみません先生……つぎの……ぎせ……のためにはこれしかないんです」と言っているように聞こえる。「つぎの……ぎせ……」のところが分かればよいのだけれども……
ところでこの幽霊、ロミオとジュリエットを参照しているが、ロミオとジュリエット本人なのかは分からない。この学院には、過去に学院の生徒と男性が恋に落ちたが学院の決まりにより引き離されたという噂(伝説?)があり、放クラメンバーが話すように、もしかするとその2人の霊あるいは怨念である可能性もある。
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さてこのコミュ、対立する両家に生まれたロミオとジュリエットの許されざる恋という構造を、コミュ内の世界の学校で語られる過去の噂である女生徒と男性、そして現代の先生と生徒に重ね合わせている。またこれはアイドルゲームであるのだから、プロデューサーとアイドルという関係にも重ねていると言える。そういう多層構造になっている。
アイドルは一般的にに恋愛はご法度だとされている。特にプロデューサーが相手となればなおさらだろう。この2人の関係において恋愛が好ましくないものとされるのは、アイドル(とプロデューサー)だからというだけでない。アイドルが未成年である場合には大人との恋愛自体が不適切だからでもある(先生と生徒の間の恋愛が適切でないのもそのためだ)。そのことは動かない前提であるとして、これはフィクションのゲームのアイドルマスターであるので、アイドルマスターというジャンルにおいてはアイドルとPが恋愛するという妄想は特殊なものではない(その辺はたとえフィクションだとしても不適切ではないのかという話もありうるかもしれないがいちおうここではこれはフィクションのゲームなのでリアルではないのでということで留めておく)。その微妙なあたりで、ロミオとジュリエットの霊(ということにしておく)に乗り移られることで、疑似的にせよアイドルから愛を囁いてもらい、アイドルに愛を伝えることを実現しているのだ。はづきさんはそのために動いてくれたとも言える。
しかしそうは言っても、ロミオとジュリエットの霊に乗り移られているわけであるし、この2人はもう死んでしまった。しかも2人の会話は死後に再会したものたちがおりなすものである。まるでそれが示すのは、生きている間には成就することはなく、死んで初めて成就する愛であるかのようでもある。逆説的にそれほどまでにこの愛は禁忌であるということを示唆しているとも読めるかもしれない…… いやさすがにそれは大げさすぎだと自分でも思うけど……
また、ロミオとジュリエットの関係の構造はさらに、このゲームのプレーヤーとキャラクターという関係にも重ね合わせられるはずだ。プロデューサー(先生)はゲーム内の一キャラクターであるが、われわれプレーヤー自身も、特定のアイドルに何らかの感情を向け、ときには愛しているケースが多いのではないかと思う。それに最後に出会うアイドルは19人一人一人を個別で選ぶことができた。その選択をするのはゲームのプレーヤー自身である。
そう考えると、シークレットでなされる会話が死を示唆するものであることが重くのしかかってくる。「ねえ、どうして私を置いていってしまったの?」「そんな、先にいってしまったのは君のほうで……」プレーヤーであるわれわれがゲームから離れていってしまうのが先か、それともそれよりも先にゲーム自身が終わりを迎えてしまうのか…… そんなことがどうしても頭をよぎってしまう。そして、「あなたのいない人生なんて、私にはなんの価値もない…… ――わかるでしょう?」とゲームの中の愛するキャラクターがジュリエットの霊を通して訴えかけてくるのだ。頭を抱える……
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しかしこれはエイプリルフール、明日になればこれはある種の妄想や一夜の夢のようなものとして見なされる。アイドルたち個人個人の、あるいは283プロがある世界の歴史の中に実際に起きた出来事として刻まれることはない。実際には起こらなかった出来事であるはずの一夜の夢にそこまで頭を悩ませる必要はないのかもしれない。けれども、このゲーム自体がこのコミュをわれわれに提示したということは事実であり、ゲームの文脈の中にこれが置かれたということは大きな意味を持ってくる。
それに、これが一夜の夢のように翌日には消えてしまうエイプリルフールの物語であるということを知っているのは、ゲームの中の人物ではなくてむしろゲームの外側にいる人物だ。われわれはゲームのプレーヤーであるからこそ、ゲームの世界の中の歴史からは消え去ってしまうこの物語をゲームの文脈の中で認識することができる。だから、エイプリルフールの一夜の夢であるということ自体が、この物語がゲームのプレーヤーに向けたメッセージを持つものだということを示しているのである。
これはまさにわれわれに問いかけられた愛である。この途方もない愛を、私はちゃんと適切に受け止めることができるだろうか…… 受け止めることができているだろうか……?
シークレットEDを見た後に手に入るプロデュースアイテムの一輪の薔薇にはこう書かれている「君の名前が変わっても甘い香りは変わらない」。これはロミオとジュリエットの中で出てくるジュリエットの台詞を参照している。モンタギューとキャピュレットという名によって阻まれる2人だが、そんな名前があろうとなかろうと自分たちは自分たちだ、名前は愛に関係ない、名前なんかなくても自分たちの愛は何も変わらない、名前を捨ててほしい。ジュリエットはそう訴えかける。
この薔薇がアイテムとして手に入り、それをプロデュースアイテムとして特定のアイドルに渡すことができるということ、これはまさにそのアイドルに対するゲームの中での愛の証となるだろう。先ほどのジュリエットの訴えかけに対するロミオの側の応答として。ジュリエットの台詞と類比的に考えれば、ここではアイドルとプロデューサーという立場を捨てて愛を成就しましょう、ということになる。この薔薇を贈るというのはそれほどの覚悟を示すという意味になる。
けれどもそれとはまた異なるものもこの薔薇に読み取ることができると思う。それは、あなたがたとえアイドルでなかったとしても、あなたはあなたであり、あなたへの愛は変わらない、というメッセージだ。相手はアイドルであるがゆえに愛することが許されないのではあるが、しかしアイドルであればこそ出会うことができた存在でもある。そんな相手に向かって、あなたがアイドルでなかったとしても、と言うのだ。そこには運命の肯定のようなものの響きが聞こえてくる。たとえアイドルでなかったとしても、絶対にあなたに出会って、あなたを愛する…… そういう証として……
そしてこれもまた高層へと上っていく。あなたがたとえゲームのキャラクターでなかったとしても、あなたはあなたであり、私はあなた自身を愛する、と…… しかしこんな水準の愛をゲームの中においてではなく、どうすれば愛するアイドルに贈ることができるというのだろう……? 頭を抱えるしかない……
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