という訳で……
改めて考え直し、“観測者”の立ち位置を再定義してみた。
▼新たな解釈を含めた“観測者”の設定
・あくまでも噂なのだが、「分霊体0号:(仮称)ガワダケホテップ」をはじめとした分霊体たちの製作者である通称「観測者」は、秘匿都市『クレイドル』にかつて所在していたヴァレトとゾディアックの源流とされる組織『アビス』に創設当初ごろからいた生き残りの1人だとされている。
・「観測者」も、『アビス』にいた頃は別の名があったとされているが、そのような記載がされた資料は当然見つかっていない。「観測者」と名乗り始めた時期も理由も諸説入り混じっており、実際のところは定かになっていない。
・『アビス』内が二派に分断された際に彼は「過激派」に属していた、だが彼の用いる「自らの五感全てを以て観測と記録を余すことなく繰り返しながら深淵と真実を目指す」という方法が、手段は「過激派」そのものでも考え方や目的が「穏健派」寄りだったため、「過激派」内では早くも“異端”であったり“中立にいる半端者”だと見なされてしまい、「過激派」の中枢部からは所謂“爪弾き者”にされていた。そのため「過激派」が行う人体実験等に干渉や参加は一切許されず、憐れんだ数名の学友から結果のみしか伝えられなかったという。
・その後起こった「過激派」の「オルフェウス」と「穏健派」の「アレイスター=ガーフィールド」の離反をはじめとした「過激派の大量発狂死事故」や「“神降し”事故」により『アビス』を内包していた『クレイドル』ごと終わりを迎え、彼を含む「過激派」にいたごく少数の生き残りは当然の事ながら居場所を失ってしまう。
・通常であれば、魔術やその他深淵の事象は最重要秘匿事項のため、「過激派」は勿論のこと、先述した事故が起きたのを契機に『クレイドル』から逃走・脱走した多くの者たちの殆どが、騒ぎを鎮めた「穏健派」の残党により放たれた追手に捕らえられてしまう。捕らわれた者たちは『アビス』の守秘義務により即座にその場で処刑され、その者たちの存在は“無かったこと”として処理されていった。
・「観測者」も考えは「穏健派」寄りだったが立場上「過激派」に所属していたため、結局追われる身となってしまった。上手く逃げ切ったかどうかは不明だが、こうして今も元気に観測し続けていること自体が結果を物語っているのだろう。
・その後「観測者」は数百年をかけて様々な次元や様々な世界線(別のシナリオ)をほぼ全て観測しながら、よく遭遇するティンダロスの猟犬には時に追い回され、時には尻を噛まれ、時には餌を与え、時には共に遊びに興じながらも転移をし続けた。このような無茶ができたのも、共に脱走しかろうじて生き残ったかつての「過激派」の数少ない学友たちや、「穏健派」の数少ない友人たちが、寿命を終える際や追手に捕まる間際に遺していった魔術の術式や礼装、その他機器類をいつの間にか回収し保管していたからであろう。
・観測を続ける中で出会ったのが、「アダム=ワース」と名乗る(恐らく偽名なのだが)胡散臭い五十路の男が新宿某所で経営していたBAR『蜘蛛の巣』であった。彼はこの男の情報網とこのBARのセーフハウス的要素に魅力を感じたのか、密かに持って来ていた術式を用いて、気付かぬ内に彼が持つ秘密の観測拠点と同様にBARを特異点化したのだった。後でちょっとだけ叱られたが、あちらも割と似たような境遇だったらしく満更でもなかったようだ。
・『アビス』で一緒だった仲間達はとうの昔に居なくなり、今では「観測者」がただ一人の生き残りとして、世界の真実と深淵に近づこうと日々観測し続けているのである。
・そしていつの日か『シルヴァ・ヴァレト』の探索者たちと出会い、彼らに真実を伝える“その時”を、観測を続けながら今か今かと待っている。全ては、探索者たちの味方であり続けるため、彼らを元気づけるために。
・……ここまで読んでて疑問に思った事はあるだろうか?勿論あるよね?「いやオマエどんだけ生き続けてんの?」、「普通の人間ならとっくに死んでるよ?」って……
・そこに気づいた貴方、貴方自身が持っているヴァレト探索者の能力値でSAN値チェックです。成功で0、失敗で1d3の減少です。
(KPやSKPなど、『シルヴァ・ヴァレト』の探索者を持っていない者は除く)
・いや〜よく気づきましたね、お目が高い!まぁ、ハナから隠す気なんてさらさら無かったのですが。それでは、覚悟or狂気のキまった方から、以下の“裏設定”をご覧ください。
▼“裏設定” (新解釈含む)
・いつから「観測者」は探索者サイドに付いたのか、それはだいぶ昔まで遡ることになる。『アビス』を追い出されてから2〜3年が経った当時の彼は、追手たちの目を掻い潜るため、別世界(ヴァレト1陣)線上の英国に存在するとされている“ヤーナム”と呼ばれる隠された都市に潜み、観測を中断してこの都市を探索していた。だが、血と臓物と獣と焼け焦げたような臭いしかしない日々にウンザリとしていた。ある時、直感ながら“ヤーナム”に4人の新たな客人達が入って来たことに気付く。「ちょうどいい暇潰しが出来る」と感じた彼は、『アビス』を追放されてから実に数年ぶりに観測を再開したのだった。
・客人達を観測していくうちに、彼の心の中は初めての感覚に出会った衝撃と様々な希望にも似た思いで染まっていった。
「この愉快で素晴らしき“探索者”と呼ばれる客人たち、彼らは脆い人間の身ながら様々な脅威や化物共を勇敢に薙ぎ倒し、遂には乗り越えていっちまった!実に爽快じゃないか!やはり人間の勇気は、彼らの誇りは、魂は素晴らしいものだな!これが“人間讃歌”か……!」
「そうだ!“人間讃歌”こそ、この不条理な世界たちを救い、真実に到達できるものなのやもしれん!私は決めたぞ!彼らについて行きながら観測と記録を通して“人間讃歌”を浴び、世界の真実へと到達してみせると!」
「そうなれば彼らを、その後に続く者達を旅路の途中なんぞで死なせてしまうのは、挫けさせてしまうことは断じてあってはならない!ならばどうする?彼らを鼓舞する謎の概念になってみせよう!なに、私にならいくらでもなれるさ!本当の貌が無いのだから!もし盤外に脅威があるなら、私自身の力で排除してみせよう!」と、実際のところ、元の名を捨てて「観測者」と本格的に名乗り始めたのはこの瞬間からだったのかもしれない。
・彼の元々の名は「ニコラウス=ケイト=モィタァワト」というかなり長いものであった。だがこれは偽名である。そしてその正体は、そんな偽名を使っていた「這い寄る混沌 ニャルラトホテップ」のいち側面が表出した一個体である。
・そう、この個体はニャルラトホテップの一側面にしては、余りにも感情や慈悲深さが良識を持った普通の人間寄りに出力され過ぎたものであり、大抵の神話生物や外なる神々、旧支配者に対して唾を吐く者にして、何故かこの『シルヴァ・ヴァレト』時空では探索者たちをはじめとした人間サイドの味方に付くことを誓った稀有な存在だったのだ!つまりは、普通の人間みたくスンゲー優しく、普通のエモに弱くなっちゃったニャル様ってこと。さてこの後は……分かるよね?
・そうだね!この文面を見てしまった貴方、貴方自身が持っているヴァレト探索者の能力値でSAN値チェックです!成功で2、失敗で1d20の減少です。
(KPやSKPなど、『シルヴァ・ヴァレト』の探索者を持っていない者は除く)
・そんな訳で、人間のような優しさや考えをエミュレートして脳を焼かれてしまったニャル様(いち側面の個体)は、いつの間にか『アビス』創設当初から在籍していた「ニコラウス=ケイト=モィタァワト」という人間として活動するようになり、『アビス』で学び続けているうちにその内部へ無意識に混沌(?)をもたらし、下記に記載した引用元の通りに“組織を二つに分断させてしまう事態”へと引き込んでしまっていたのだった。
・その最たる例が、「過激派」筆頭である「オルフェウス」に1つだけ“世界の真実に至る大々的なヒント”を無意識に彼の脳内へと流してしまっていたことであった。研究のため何日か徹夜を続けてしまったのが運の尽きだった……その後の様相は語るまでもないだろう。
・『アビス』を分断させてしまったことは流石に堪えたのだろうか、『クレイドル』が終焉し、かつての仲間たちが散っていった以降も、彼は自身に課された責務としてこの「過激派」と「穏健派」が犯した過ち、そして「シルヴァ・ヴァレト」と「ゾディアック」による不毛な争いをどうにか終わらせるため、各勢力の動向を今でも観測し続けている。全ては、探索者たちの味方であり続けるため、彼らにより良い明日を迎えてもらうために……
▼引用(参考、抜粋)元
世界の深淵を覗き、世界のすべてを知る事を目的とした魔術集団。秘匿都市クレイドルにて研究を行っていた彼らは、世界の答えを知るためにどんな手段も選ばぬ『過激派』と、人の益になる研究から人の世界に成長を見せることを目指す『穏健派』の二種に学派が分かれていた。穏健派と過激派は小競り合いを繰り返しながら、アプローチは違えど魔術という特殊な術式を学んでいたが。
だがしかし、それは200年前に過激派の離反によって終わりを告げられる。
過激派筆頭であった一人の天才、オルフェウスの探求によって世界の真実が明かされた結果、多くの過激派が発狂。そしてオルフェウスと友人関係にあった穏健派筆頭の家系の人物であり、シルヴァ・ヴァレトが起用することに攻撃魔術『魔弾』の創設者、アレイスターと共謀しオルフェウスはクレイドルに神を降臨。その後姿をくらましたことで、クレイドルもアビスも終わりを迎えた。
(PINO著『SILVER BULLET Material Book』より 「源流であり原点であり元凶『アビス』」の項から一部抜粋)