多分中学時代の私は「ペーパームーンでつかまえて」で、工藤由香と桜崎圭二郎のカップルに恋をした話。
「ペーパームーンでつかまえて」は秋野ひとみ先生著の少女向けライトミステリー。
つかまえてシリーズの7作目に当たります。
主人公の由香は高校2年生になったばかりの16歳。
「ペーパームーンでつかまえて」で昔からとても好きなシーンがあります。ちょうど上下巻またぐところです。
ちなみに「ペーパームーンでつかまえて」はストーリーとしてはあまり面白いと思わないので、正直「これつかまえてで絶対読んだ方がいいやつ!」とは全く思いません。秋野先生ごめんなさい。むしろ勧めないまである。(超主要人物初登場巻ではありますが)
そんな訳で中学生のときは好きなシーンばかり読んでいました。
あれからかなりの年月が経ち、ようやく最近読み直しましたが、やっぱり私は好きなシーンばかり読み返していました。
よりにもよって好きなシーンが上下巻またぐため、私は2冊引っ張り出してこなくてはいけない。面倒くさい。(…)
余談ですが私が世界で一番好きな映画は「ペーパー•ムーン」です。この話とは別で好きです。だけどおそらくこのシーンが無ければ、この古い映画を観てみたいと思うことは一生無かったと思います。
前提として
•桜崎探偵事務所にて由香と圭二郎さんが二人、事件のキーとなる三日月型の紙製の模型(建築物の模型)を見ている。
•紙で出来た模型を見ながら圭二郎さんが口笛を吹く。
•由香がその曲は何かと訊くと、圭二郎さんは「ペーパー•ムーン」という映画の主題歌だと答える。
という場面があります。
で、問題のシーンなのですが、
舞台である遊園地に調査に来た由香、サキちゃん、小林、桜崎兄弟の5人は、犯人により鏡の迷路にバラバラに閉じ込められます。
暗闇の中で由香は震えながらサキ、小林、圭二郎さんの名前を呼びますが反応はありません。(この由香に圭一郎さんの存在はどうしたと言いたい笑)
由香が鏡の端に一瞬圭二郎さんの影が映ったと思った瞬間、床板が外れ、彼女は奈落へと転落していきます。(ここまでが上巻)
で、なんやかんやあって(端折ります)、由香は元の鏡の迷路に戻りますが、相変わらず仲間は誰一人として見当たりません。
と、そのとき口笛と靴音が聴こえてきました。
もしかして自分を「つかまえに」きた犯人なのではないか、いよいよ自分は殺されるのではないかと、由香は息を潜めます。と、耳に届く口笛はどこかで聴いた明るいメロディ。
それは圭二郎さんが教えてくれた「ペーパー•ムーン」の主題歌「It's Only a Paper Moon」でした。
この足音の持ち主が圭二郎さんだと確信した由香は、犯人に見つかるのも構わず、圭二郎さんの名前を大声で呼んで走り出します。
圭二郎さんに無事再会でき、彼の胸でひとしきり号泣した後、由香は訊きます。
「桜崎さん、なんでこんなとこで、口笛なんか吹いてるのよ。なんでよっ」
「キザなんだ」
これ。
まだ恋愛未満の二人だけど、確かな信頼関係があるのが伝わってきて、たまらなく好きなんですよ。
犯人に見つかったら殺されるかもしれないという事態。
そんな中、口笛を吹くという行為は自分の居場所を犯人に知らせるという可能性を含んだ危険な行為です。
それを承知で圭二郎さんは口笛を吹きました。
また由香を見つけたいだけなら、かっこつけて口笛ではなく由香の名前を呼び続ければいいだろ、とも思うかもしれませんが、暗闇な上、犯人は由香に偽装出来ます。出くわすのは由香に化けた犯人かもしれません。
そこで「本物の由香」だけと共有した、「It's Only a Paper Moon」なんです。由香が、あの時自分と共有した時間を覚えていることを信じて。
「It's Only a Paper Moon」はいわば由香と圭二郎さんの二人だけが知っている、シークレットコードなんです。
「キザなんだ」
の一言で済ませていますが、間違いなく由香を救うためだけに陽気なメロディの口笛吹いていた圭二郎さん。自分の危険も省みずに。
今思うとこれがあったから、最序盤で私の気持ちが動かなくなってしまいました。
元々2作目から読み出した私は圭二郎さん派ではあったのですが、これで本気で由香と圭二郎さんの関係に恋してしまった。
年齢差がなんだ。
由香が10代だから、圭二郎さんが30代だからってなんなんだ。(と思う当時13歳の私)
恋のライバルが多いからって、他に年齢も見てくれもお似合いの相手がどちらにも存在するからってなんだ。
絶対、由香の相手は圭二郎さんしかいない。
本気で確信した。
それが現実になるのはこれから27作も後だったけど。
そもそも「幸せの象徴」として、30年代のアメリカではハリボテの三日月(ペーパームーン)
に乗って写真撮影するのが流行ったとききました。
この作品では「ペーパークラフトのお月様」のことを指すのですが、由香にはいつでも心に止めておいて欲しいなー、と。
「It's Only a Paper Moon」は「紙の月でも恋をすれば本物のお月様にみえる」というような歌詞だと、由香は圭二郎さんに説明されたことを。
こののち二人はハリボテの月を本物のお月様に変えたんだよなーと思うと感慨深いです。
実際「It's Only a Paper Moon」の歌詞ってこんな部分があります。(意訳ゥー)
それはただの作り物の世界なんだけど
ハリボテじゃなくなるんだよ
君が僕のことを信じてくれたならね