Miss Sake(ミス日本酒)& Mr. Sakeの募集要項について、Missに年齢および結婚ステイタスの制限があり、Mr.にはなかったことについて、周囲へのアンケートとともに調べたことをまとめてみました。
【前提】
👩Miss SAKE募集要項
・満20歳以上39歳以下であること。
・未婚の女性であること。
・日本国籍のパスポートを有すること。
👱♂️Mr. SAKE募集要項
・満20 歳以上であること。
・男性であること。
・日本国籍のパスポートを有すること。
この要項から、「なぜMissには年齢制限があり、Mr.にはないの?」「なぜMissは未婚でなければならないの?」といった疑問を呈する声が上がりました。
わたしはSAKE(日本酒)が世界でどのように展開していくべきか、ということを見つめるジャーナリストです。同コンテストの選考基準には「グローバルな感覚を持ち合わせた女性/男性」という項目もあったため、果たしてこの基準は実際の「グローバルな感覚」からはどのようにとらえられるのか? ということをリサーチしてみました。
【考えられる原因】
昨年までMiss SAKE(ミス日本酒)とMr. SAKEは別の団体によって運営されていましたが、今年からMiss SAKEを運営する「一般社団法人ミス日本酒」が、Mr. SAKEも併せて運営することとなりました。
Miss SAKEは、そもそもがいわゆる「ミス・コンテスト(ミスコン)」です。
ミスコンとは、もともと「独身女性の美しさ」を競うコンテストであり、その歴史は19世紀後半まで遡ります。
世界四大ミスコンと呼ばれるおなじみミス・ユニバース、ミス・ワールド、ミス・インターナショナル、ミス・アースいずれも応募対象は「独身女性」であり、それぞれが年齢制限を設けています。
Miss SAKEは、こうした従来の「ミスコン」の文脈に則って生まれたもの。
一方のMr. SAKEは、「日本酒文化を楽しむ会」が、日本酒を普及する男性を発掘することを目的に設立したもの。
それが今年、同じ団体が運営することになり、ある程度の統合を見せた。
つまり、「別々」だったものが、「同じ」文脈で語られることになった。
これが、「なぜ、男女で差があるのか?」という疑問を引き起こすかたちになってしまった、というわけですね。
【アメリカの人々に聞いてみました】
Miss SAKEとMr. SAKEで募集の規定が異なるという実態について、男女計9名(米カリフォルニア州在住/非日本人/20〜50代/いずれも日本酒についての知識がある人々)に意見を募ってみました。
カリフォルニア州は同性婚が法律で許可されている地域であり、わたしの住んでいるサンフランシスコ周辺は全米で最もLGBT人口の割合が多いと言われるエリア。ジェンダー/セックスに関してはかなりシビアな感覚を持っています。
── Extremely sexist, the rule should be the same(どう考えても性差別、ルールは同じであるべき) by 30代男性
── Sexist is a more appropriate word than conservative. (「コンサバ」よりも「性差別主義」と言ったほうが的確だろうね) by 40代男性
── I’m willing to listen what their reasoning is for the stupid rules then I’ll probably say it’s still XXXX(なぜこんなバカバカしいルールを設定したのか聞きたい。理由を聞いてもXXXXって言っちゃうだろうけど) by 20代女性
── No reason except sex sells. Like the American 1950s. It’s pretty dumb way to promote sake in my opinion. Kind of degrading all around. (「女」を売り物にしているとしか考えられない。1950年代のアメリカみたい。個人的に、日本酒のプロモーションとしては最悪だと思う。むしろ品位を下げているといってもいい) by 30代女性
男女ともに、なかなか厳しい意見が集まりました。
ここで語られているのはともかく基準が「同じ」であるかどうか、ということ。「性によって差を設ける=sexist(性差別主義)」と捉えられてしまい、「何かSex Sells(性を売りものにする)的な理由があるのではないか」という勘ぐりを引き起こしてしまうようです。
逆に、「同じ」であればこれは問題ではなく、いずれも「女性に年齢と結婚ステイタスの制限があるなら男性にも同様にすべきだ」という論調でした。
ちなみに、回答してくれたワイン関係者から「ワインには性差のあるコンテストはないよ」という意見もいただいたので探してみたところ、日本生まれの「ミス・ワイン」というコンテストが見つかりました(独身女性対象/年齢制限あり)。……日本、ミスコン好きなんでしょうか。
【海外のMiss SAKE】
Ms. Sakeコンテストは海外でも展開しており、2020年度はインド、台湾、中国・上海、ベトナム、香港で行われます。
2020年度の開催国に関して調べてみたところ興味深かったのが、
・台湾&インド→募集要項に「シングル」の規定なし
・香港→「シングル」と明記あり
と、募集を独身に限定していないらしい国が見られたこと。
(明記していないだけで、既婚者が応募してきたら選外とするのかもしれませんが、内実はわかりません)
ちなみに中国・上海は公式サイトらしきものがなく、ベトナムは翻訳機能を駆使して公式Facebookを読んでみましたが募集要項は見られませんでした。
なお、2019年度に開催されたオーストラリアの公式HPにも、特にシングルの記述はありませんでした。
【現代のミスコン】
「女性を見た目で評価する」ということから、世界でもしばしば批判の対象となっているミスコン。ミス・アメリカやミス・ワールドでは水着審査が廃止され、「見た目」から「内面」の美しさや「社会への貢献度」を重視する風潮にシフトしてきています。
(ちなみに、Miss SAKEは2014年のウォール・ストリート・ジャーナル紙にて「水着審査がない」ということで好意的?な記事が書かれています https://www.wsj.com/articles/miss-sake-charms-just-like-the-drink-1411351715 )
また、ミス・ユニバースでは2013年より、性転換者の応募も受け付けるようになりました。
今回のテーマに関係して簡単にリサーチした程度になってしまいますが、「ミスコン」は時代に即してどんどん変化してきている、ということですね。
【わたしたちは何を見るべきなのか】
今回、Miss & Mr. SAKEについてコメントを求めたサンフランシスコ在住の知人から、こんな意見をもらいました。
── If you want a face/name Japan already has one they should support Hidetoshi Nakata. Female spokesperson question. An attractive model is a good idea. (もし日本(の日本酒業界)が著名な人を立てたいなら、中田英寿がいるし、彼をサポートすればいい。一方、女性の(世界的に通用する)スポークスパーソンというと疑問。美しいモデルのような女性はアイデアとしてアリだと思う) by 50代男性
Miss SAKEもMr. SAKEも、そのミッションは「日本酒をより多くの人に広める」ということ。確かに、ミス・コンテストを勝ち抜くような美しい女性が日本酒をプロモーションすれば、世界のより多くの人々が日本酒に興味を持ってくれるようになるかもしれません。
そのとき、その女性は若くなければならないのか?──実例がないのでわかりませんが、若いほうが有効に機能するケースもあるかもしれませんし、そうではないかもしれません。
そして、その女性はシングルであるべきなのか?──そこには明確な理由が欲しいところです。
日本酒への情熱と知識を持ち、世界へ日本酒を広めるような力のある人なら、たとえ40歳以上でも、既婚者でも評価されるべき──それは疑う余地はないだろう、と思います。
今回のリサーチの中で、日本酒にはMiss SAKE&Mr. SAKE以外にも、酒美人やSAKEマダムなど、スポークスパーソンとしてのさまざまな肩書きがあるのだと学び、それだけ、日本酒を広めるためにみんな試行錯誤をしているのだと再認識させられました。
【わたしは何を見てゆくのか】
冒頭でも述べましたが、わたしはSAKE(日本酒)が世界でどのように展開していくべきか、ということを見つめるジャーナリストです。
わたしが見るべきは、SAKEが世界で広まってゆくにあたって、それが有効に機能しているか(何も効果をもたらしていないか/逆効果になっていないか)ということの一点に尽きます。その行為が、SAKEのためになっているか、いないのか。
Miss SAKE&Mr. SAKEに関してはそれはまだわからないので、今後も追いつつ、何か動きがあれば記事などで取り上げたいと思います。
(……ということもあり、今回はnoteなどとは違うかたちでリサーチ結果をレポートさせていただきました)
世界から見れば、SAKEの市場はまだまだ発展途上(ワインの1%ですよ!)。いろいろなことをやるべきだし、たとえ失敗しても、トライアンドエラーはあってよく、みんなで学び合ってゆけばよいのだと思います。
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ところで、今回のリサーチを行う中で、日本のミスコンで「美人ではない」と批判を受けている人の話題をネットでたまたま見つけたので、インタビュー相手の一人に記事をシェアしたところ、「彼女はとても美しいじゃない! 日本人は『美』の感覚が狭すぎるよ」というコメントをもらいました。
また、別の人からは、「性差の問題で言うと、日本には女性専用車両があるけど、あれは東京オリンピックのとき物議を醸すんじゃないか」といった意見が出ました。
(日本はセクシュアルマイノリティへの問題意識や、「男性も性の被害者になりえる」ことへの認識がまだまだ後れているとは思います)
美しさも、セックス/ジェンダーも、日本国内で「一般的」とされるものさしで測ってしまうと、「グローバルな感覚」からはかけ離れていることがある。言い尽くされた言説かもしれませんが、SAKEが「グローバル」を視野に入れるかぎり何度も立ち返らなくてはならない、ということを実感するリサーチとなりました。