先日BLPで作成した「絶血の楔」持ちの血盟のプレリュードを描いたSSを書きました。
全部で約7600字あります。
――綺麗な銀髪の、可愛い男の子。
それが、ミラのヴォルフガングに対する第一印象だった。
「(ん? あそこに居るのは……)」
その日は、ミラが山の見回りをする担当だった。
夜空を眺めながら森を散策していると、狼と対峙している少年を見つけた。
「(こんな夜中に人間、しかも子供が山にいるなんて珍しい……。って、よく見たらあれフェンリルじゃん)」
よく観察してみれば、少年が対峙しているのは綺獣のフェンリルである。どうやら少年と喧嘩中のようだ。
「(いや、もはやあれは弱い者いじめじゃん)」
少年はどうやら未熟ながらも術師のようだ。攻撃を仕掛けるフェンリル相手に応戦してはいるが、既にボロボロだった。今にもフェンリルに食べられそうである。
「(あの髪色でこんな場所に迷い込むような子……。なるほど、ファフナー家の子供か。仕方ない、助けてあげるか)」
フェンリルが頭から食べようと少年に飛びかかるその瞬間、ミラが間に入り槍でその牙を受け止める。そのまま槍を振り回し、フェンリルを遠くへ投げ飛ばす。
「ッチ、邪魔するんじゃない! ワルキュリアの末妹め」
「邪魔するも何も、君の縄張りは隣の山でしょ? わざわざこっちまで来て何してんの」
「フンッ。父上の使いの帰りだ。その途中でコヤツの術がこちらに飛んできたのでな。喧嘩を売られたから仕返ししただけだ」
「だとしても子供相手にやり過ぎ。力持て余しすぎて暇だったら僕が相手してあげるよ」
「ワルキュリア最弱のお前が? 腕の一本がもげても知らぬぞ」
「末っ子だからって舐めてもらっちゃ困るね。君こそ、尻尾がちぎれても知らないよ」
そしてミラは振り返り、後方にある大きな木の洞を指差す。
「危ないからそこに隠れてて」
「え、で、でも……」
「大丈夫。僕強いから! そこで見てて」
にっこり笑って見せると、少年は不安そうにしながらもコクリと頷いて木の洞へ走っていく。それを見届けてから再び目の前の獣に向き直る。
「ハッ、どうなっても知らぬぞ」
「そっちこそ、後悔しても遅いよ」
一人の戦乙女と一匹の獣が互いに飛びかかり、戦いの火蓋が切って落とされた。
――吸血鬼同士が戦うこと一時間、ミラがフェンリルの頭を踏みつけて抑える形で、ようやく決着がついた。
「はい、僕の勝ちー!」
少女のように微笑み勝利を宣言するミラに、フェンリルは悔しげに唸り声を上げる。
「くそ……! グレイプニルさえなければ貴様など……」
「負け惜しみはいらないから。ほら、さっさとロキ伯父様の山に帰りな」
フェンリルを開放してやれば、彼は「覚えておけよ!」と叫びながら走り去っていった。
ミラは木の洞に隠れている子供のところへ行く。
「大丈夫? アイツなら追い払ったからもう平気だよ」
と、手を差し伸べる。
「あ、ありがとう」
少年は少し頬を赤らめながらミラの手を取る。
「君、ファフナー家のお坊ちゃんでしょ。ここファフナー家の訓練場からだいぶ離れてるけど……、もしかして迷子になっちゃった?」
「お、お坊っちゃんはやめろ。オレにはヴォルフガングという名前があるんだ」
恥ずかしそうに反論する彼の名前に既視感を覚える。何処かで聞いたような気がして記憶を辿る。
「あー。そういえば少し前にお父様がファフナー家の赤子にそんな名前をつけてたような……。え、もしかして君がその時の赤ちゃん?」
「赤子じゃない。オレはもう10歳になったんだ」
立派な大人だと主張する少年に、少しクスリと笑うミラ。
「ごめんごめん。じゃあ、ヴォル君って呼ぶね。僕はミラ・レギンレイヴル・ワルキュリア。君の好きなように呼んでよ」
「……じゃあミラで」
ふと、ヴォルフガングの目線が下に向けられる。
「それ、痛くないのか?」
「ん?」
ヴォルフガングの目線の先をたどれば、ミラの脇腹辺りからちが流れていた。
「うーわ、いつの間に」
「気がついてなかったのか?」
「あー……。僕人間辞めたときに痛覚なくなっちゃったからさ。怪我しても気が付かない時あるんだよね。教えてありがと。すぐ治るよ」
血奏方でぱぱっと止血しながら、ミラは内心苦い顔をする。
「(子供の前だからかっこつけて無傷で済ませようと思ったのに……。いや、姉さんたちだったらもっと早く決着ついただろうな)」
ミラのいつもの戦い方は、『身を切らせて骨を断つ』をそのまま体現したようなものである。この戦い方を昔、人間の子供の前でしたら泣かれた経験があったため、子供の前ではできるだけ怪我をしないような戦い方をしていた。
「(でも、この子は泣かなかったな。術師の子だから肝が座ってるのかな。泣くどころか、キラキラした目でこっち見てたし)」
改めて少年を観察する。銀色の柔らかそうな髪色はフェンリルとの死闘で泥まみれ、服はボロボロ、息も切らしており、一人で山を降りるには体力が持たないだろう。
「(おまけに熱でもあるのか、妙に顔が赤いし……。風邪でも引いてるのかな)」
――顔が赤い理由はまた別にあるのだが、このときのミラはそんなことを知るわけがなかった。
「夜も遅いし、家の前まで送ってあげる」
ミラは軽々とヴォルフガングを持ち上げると、お姫様のように横抱きにする。
「お、おい。歩けるから必要ないぞ」
「まあまあ、子供なんだから素直に甘えなよ。じゃ、しっかり捕まってて」
脚に力を込めたかと思えば、ミラの身体は空へと飛び上がる。
「ほら見て。今日は天気がいいから星が沢山見えるよ」
ミラがそう言うと、ヴォルフガングは「わぁ……!」と感嘆の声を上げる。キラキラとした目で景色を眺める姿は、可愛らしい子供そのものだった。
ふと、少年と目が合う。ニコッと笑いかけてみれば、少年は再び頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。
「(あれ、嫌われちゃったかな?)」
ミラは『目をそらされた理由』がわからず首を傾げる。
「な、なぁミラ。オレと決闘してくれ!」
思ってもみない唐突な申し出に、ミラはパチクリと目を瞬かせる。
「決闘? フェンリルにボコボコにされてた君が? 僕に?」
「お、オレは吸血鬼よりも強い人間になるのが目標なんだ。だから……」
「ふふ、いいよ。僕は売られた喧嘩は買う主義だから」
ミラの答えに少年は目を輝かせる。
「じゃあ――」
「でも今すぐはダメー。全力で戦えるまで回復したらまたもう一回申し込んで」
ミラがそう言うと、少し不満そうな顔をしながらも頷いた。
「さ、帰ろうか。君のお父様とお母様が待ってるよ」
そう言ってファフナー家に向かってミラは夜空を駆け抜けた。
「くそ、また負けた……!」
膝をついて悔しがるヴォルフガングを前にしたり顔でミラは立っている。
「もう少しだったねぇ、ヴォル君」
「何がもう少しだ……。拳の一発も当たらなかったのに」
拗ねたようにそっぽを向くヴォルフガングを微笑ましく眺める。
「(毎回よく折れずに挑んでくるよなぁ)」
ヴォルフガングを助けたあの日から5年間、彼は飽きもせずミラに決闘を申し込んできた。
最初こそ、『子供だから』と手加減をしていたミラも、回数を重ねるごとに彼が強くなっていく様子を見るのが楽しくなって来ていた。今ではうっかり手加減を忘れそうになるぐらいに彼との決闘を楽しんでいる。
「お疲れ様ー。立てそうにないならまた抱っこして送ってあげようか」
「……必要ない」
立ち上がったヴォルフガングを見て、ミラはふと気がつく。
「ヴォル君さ。なんか、背ぇ伸びた?」
ついこの間までミラより頭一つ分小さかった背丈が、今はミラと同じぐらいの高さになっていた。
「それはそうだろう。15の人間なんて、育ち盛りのようなものだぞ」
「人間ってそんなに成長早いんだね……?」
「お前たち吸血鬼が長生きし過ぎなだけだろう」
「まあ、確かに……?」
ミラ自身、人間とここまで親密に関わった経験が殆どない。それこそ、目の前のヴォルフガングが初めてである。人間と吸血鬼の寿命の差など、知識として知ってはいても実感することはなかった。
「そろそろ俺は帰る」
「あ、家まで送って行くね」
決闘が終わったあとにミラがファフナー家まで送り届ける流れも日課の一部となっていた。送り届けるまでの間に、ヴォルフガングと話をするのもミラの楽しみの一つである。
「そっかぁ。ヴォル君もすぐ大人になっちゃうのかぁ」
「この国じゃ成人は18歳からだから、あと3年は必要だな」
「3年ってすぐじゃん。ちょっとお昼寝したらすぐ経っちゃうよ」
「吸血鬼の3年と人間の3年を一緒にしないでくれ……」
「あ、でも成人ってことは、そのうち許嫁連れてお父様に挨拶しに来るんだよね。歴代のファフナー家当主がそうしてたし」
――きゅ、と何故か心臓が締め付けられたような息苦しさを感じる。
「(あれ、なんで僕、自分で言った言葉で苦しくなってるの)」
困惑しているミラに気が付かず、ヴォルフガングは言葉を返す。
「……いや、俺に許嫁は必要ないと親には言ってある。伴侶は自分で連れてくると決めているからな」
それを聞いたミラの胸から息苦しさが消え、何故か安堵の感情が芽生える。
「そっか! 見つかるといいね、ヴォル君が伴侶にしたい人!」
「ああ、それならもう――」
「おっと、もう家についたね」
気がつけばもう二人はファフナー家の前に着いていた。
「じゃあヴォル君、またの挑戦待ってるねー!」
「あ、あぁ。また」
なにか言いたげなヴォルフガングに気が付かず、ミラは山へと戻る。
「(……なんで僕、ヴォル君の伴侶の件でこんなに一喜一憂してるんだろ。別に、ヴォル君のお嫁さんとか、どんな娘連れてこようが僕には関係ないことじゃん)」
帰り道を歩きながらぼんやりと先程の現象について考察する。自分でもなぜあのような気分になったのかがわからなかった。
『知っているか、レイヴル。日本には“源氏物語”という大人気長編物語があってだな。その中のエピソードに“主人公が幼き娘を自分好みの女性に育て上げて嫁にする”、というものがあるんだ。お前とファフナー家のお坊ちゃんとの関係はまさにそれのようだな』
頭によぎるのは、先日自分をからかってきた姉のお言葉だった。
「(いやいやいやいや! だから、そんなんじゃないし! 確かにヴォル君は最初の頃に比べたら強くなったけどさ!)」
慌てて姉の言葉を掻き消す。
「違うもん。僕はどっちかというとヴォル君のお姉さんだし。ヴォル君のことはちっさい頃から見てるし。そういう対象じゃないし……」
ブツブツと呟きながら一人で何かに対して弁明していく。
「大体、姉さんたちの恋だって、上手くいったモノの方が珍しいじゃないか」
人間と吸血鬼の恋愛は、殆どが悲恋で終わるもの。少なくともミラの認識ではそうだった。
愛する人に裏切られた姉、想い人を思った末に恋を諦めた姉、相思相愛だったのに周囲から迫害された姉。
中でもミラの中で印象に残っていたのは、恋人が人間同士の戦争で命を落としたという姉の一人。
『こんなに辛い思いをするなら、最初から会わなければよかった』
そう泣き叫びながら、朝日と共に灰になっていく姿は、地味にミラのトラウマになっていた。
「僕も恋をしたら、あんな風に弱くなっちゃうのかな」
そんなのはごめんだ。と、ミラは一人呟く。
「そんな弱い姿、ヴォル君に見せたくな……。い、いやヴォル君は関係ない、関係ない。そう、僕はヴォル君のお姉さんだから、ヴォル君がお嫁さん見つけて、子供作って、それでおじいちゃんになるまで見守る使命があるから!」
自分で言った台詞に、痛みなど忘れたはずの心臓がチクリと疼き出す。
「もう、この件は考えないでおこう」
結論を先延ばしにし、ミラは帰路へと歩みを進め――
「――ろ……! 起きろ、ミラ!!」
ヴォルフガングの呼び掛けで、ミラは目を覚ます。
そこはワルキュリア家が倉庫として使っている洞穴の中だった。
「っ……! 良かった、目を覚ましてくれて」
安堵の表情を浮かべたヴォルフガングが、ミラを抱きしめる。
「ど、どうしたの、ヴォル君、何があったの?」
状況をいまいち飲み込めていないミラは困惑しながら問いかける。
「お前、覚えてないのか? 危うく消えかけてたんだぞ」
「消えかけて……あ」
そこで、ようやくここに至るまでの経緯を思い出す。
ワルキュリアの住処に業血鬼が襲撃しに来たこと。
姉たちが必死に自分を逃がしたこと。
業血鬼を倒すため、ファフナー家へ向かおうとしたこと。
途中、思うところがあって倉庫へ寄り道したこと。
探し物を見つけて再びファフナー家に向かおうとしたら、朝になっていたこと。
「(て、ことは、さっきまで見てたのは走馬灯ってやつか)」
そういえば、妙に身体が焦げ臭く感じる。よく見れば指先や肩に小さな焦げ跡がある。木漏れ日で焼けたあとのようだ。
「とにかく、お前が無事で良かった」
再び存在を確かめるように、ヴォルフガングが抱きしめてくる。彼の匂いがミラの鼻孔を擽れば、直ぐ様ミラの喉が乾きを訴え始めた。
「ヴォル君、ごめん。一回離れて」
「! すまない。苦しかったか?」
「違うの、今喉乾いてるから。あまり近いと齧り付いちゃいそう」
手負いの吸血鬼であるミラにとって、眼の前の人間はご馳走のようなものだった。
慌てて離れようとするが、ヴォルフガングは離すどころか、さらに強くミラを抱きしめ、自分の首筋にミラの頭を押し付ける。
「飲め」
「いや、でも」
「いいから飲め。俺はそのぐらいで死にはしない」
優しい声で吸血を促すヴォルフガングに、ミラも文句が言えなかった。
「貧血になりそうになったら突き飛ばしてね」
ミラは恐る恐る首筋に歯を立てる。少しずつ、飲みすぎないように慎重に血を吸い出す。
「もう大丈夫。ありがと」
必要な分だけ接種して再び離れようとするが、ヴォルフガングは離そうとしなかった。
「ワルキュリアの住処に行ったんだ」
ヴォルフガングの腕に力が籠もる。
「お前の姉さんの一人が、最後の力を振り絞って、業血鬼の場所と、お前を逃がしたことを教えてくれたんだ」
「……そっか。姉さん達は、最後まで諦めずに戦ったんだね」
きっと、住処に戻っても、残ってるのは灰だけなのだろう。覚悟はしていたが、それでも、忘れたはずの痛みが心臓を貫いた気がした。
「間に合って良かった」
心底安堵した声でつぶやくのがミラの耳にも届いた。
「(あぁ、そうか。ヴォル君は心配して来てくれたんだ)」
愛おしいという思いが、寂しさを癒やしてくれたような気分だった。ヴォルフガングを安心させるように、ミラも抱きしめ返す。
「ヴォル君、またおっきくなった?」
「今頃気がついたのか。もうとうの昔におまえの身長を超えてる」
「そっか、来年には成人だもんね。……人間の成長は早いなぁ」
そのうち、彼も老いてミラより先に死んでいくのだろう。そうなったら、姉達もいないこの山で一人で余生を過ごすことになるのだろう。
――愛しい人がもういないこの山で。
「やっぱり、それは嫌だな」
「? なにか言ったか」
「なんでもない。……ねぇ、ヴォル君」
そう言いながら、ミラは懐からそれを取り出す。
「僕と血契を結んでくれない?」
ミラの掌にジワジワと火傷を残しながら輝く“夕鋼製の楔”を見て、ヴォルフガングは目を丸くした。
「ヴォル君も術師の家の子なら、わかるよね。業血鬼を倒すには血契が必要なことも、普通の血契ではコレを使わないことも、コレを使うことの意味も」
ヴォルフガングは頷く。
「アイツを倒すために血契が必要なら、僕は君がいい」
いつものように笑えているだろうか。そう思いながら、ミラは静かに続ける。
「姉さん達も死んだ。いつか君も死んで、この山で一人になるぐらいなら、僕も一緒に死にたい。でも、僕がこの戦いで先に死んで、残された君の隣に知らない誰かが立とうとするのも嫌。
――それぐらい、僕は君のことが大好き」
我ながら重たすぎる言葉だと心の中でミラは自嘲する。断られても仕方ないだろう。
「だから――」
「わかった。じゃあ好きなように打ち込め」
あまりの迷いのない一言に、ミラの方が言葉を失った。
「元々俺もお前と血契を結ぶためにここに来たんだ。覚悟はできている」
「ほ、本当にいいの? 血契を結ぶだけならコレを使わなくてもいいんだよ?」
「いいか、ミラ。よく聞け」
ヴォルフガングは真っ直ぐにミラの目を見つめる。
「――俺もお前が好きだ。
だから、お前の楔ならどこへでも打ち込め。それがお前の愛情ならオレが死ぬ事は無い」
嬉しさと愛しさでミラの視界が滲んだ。
「本当に、いいの? 僕がうっかり死んだら、君も死ぬんだよ?」
「お前が死なないように俺が守ればいい話だろう」
「僕、頭良くないし勉強も苦手だから迷惑かけるよ」
「お前は言うほど頭は悪くないし、わからない所があれば俺も教える」
「我儘沢山言うよ? 血契の約束を『週5でデート』とかにしちゃうよ」
「……………………構わないぞ」
「ふふ、冗談だよ。『最低週1はデート』にしてあげる」
くすりと笑ったミラはヴォルフガングにそっと顔を近付ける。
「一緒に戦ってくれる? ヴォルくん」
「あぁ、勿論だ」
その言葉を聞いて、嬉しそうにミラはヴォルフガングに口付けた。
――それから、5年後。
「見てー、ヴォル君! 懐かしい写真が出てきた!」
日本への留学ための荷造り中、ミラが一枚の写真を持ってきた。
「ほら、ヴォル君の11歳の誕生日に一緒に撮ってもらった写真! 懐かしいー!」
「あぁ、本当だ」
「この頃のヴォル君本当に可愛かったなぁ。ちっちゃくて、銀髪がキラキラしててふわふわで……。あ、今のヴォル君の髪ももちろん僕は大好きだよ! 昔の髪の色が月の光の色なら、今の髪色は夜空の暗闇のような色だよね」
血契の影響ですっかり黒くなったヴォルフガングの髪を、ミラは愛おしそうに撫でる。
「ミラの髪もこの頃は長かったな。今は伸ばさないのか」
ヴォルフガングは、ポンとミラの頭に手を乗せる。
「あー、元々姉さん達と髪結い遊びするために伸ばしてたから。5年前に切られて以降は、そういう機会もないから短いままにしてるんだ。……ヴォル君は長い髪のほうが好き?」
「どっちのミラも可愛いくて綺麗だとは思うぞ」
「じゃあ短いのに飽きたら長髪に戻そうかな!」
ヴォルフガングの返答に満足そうに笑うミラ。
「日本楽しみだね! 向こうにはサムライとかニンジャとか強い牙狩りが住んでるんでしょ? 手合わせできるといいなぁ」
「手合わせできるか以前にミラの命が狙われないか……?」
「僕はそう簡単に死なないよ! それに、そうなった時はヴォル君が守ってくれるんでしょ」
「勿論だ」
「やった! えへへ、ヴォル君だーいすき」
当然のように答えてくれるヴォルフガングを愛おしく思うあまり勢いよく抱きつく。
その後、二人の日本での活躍から、『北欧のバカップル』と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の話。