💝手加減なしの独占予告💝(Ⅳ後/背後注意)
「なあリィン。今度の週末、 "家デート" しねえ?」
「 "家デート" ??」
クロウからの突然の提案に、リィンは不思議そうに首を傾げた。
「それは、家で過ごすってことか?」
「平たく言えば、そういうこったな」
「うーん??」
『意外だな』と思った。
今週末は休みを取ったと聞いていたので、リィンも予定を空けてある。
何故なら、今度の土曜日は3/14、ホワイトデー。サプライズ好きの彼なら見逃すはずのない重要な季節イベントの一つなのだ。
テーブルに広げた今日の新聞とにらめっこをしていたクロウは、お手上げだと言わんばかりに苦笑する。
「金曜から日曜、終日雨になってんだよ」
「そうなのか?」
『ほら、ここ』と指さされた週間天気予報の欄には、朝から晩までズラリと雨のマークが並んでいた。
「あ、本当だ」
「ついでに、最近は物騒なニュースも多いしな。なら、たまには家でのんびりすんのも悪くねぇかな、と思ったワケだ」
なるほど。さすがに天気はどうしようもない。梅雨時でもないのだし、どこかへ遊びに出かけるなら晴れているほうが動きやすいに決まっている。
近頃、世間を騒がしている話に関しても思うところはあるのだけれど、表舞台から身を引いた一介の教官である今の自分にできることは少ない。
いずれにせよクロウがそう判断したのなら、そうすることが一番いい形なのだろう。
「俺はクロウと一緒にいられるなら、どこでも構わないよ」
「ハハッ、嬉しいこと言ってくれるねえ」
「でも、家でデートって、具体的に何をすればいいんだ??」
『デート』となると、日常と同じことをしたってクロウは面白くないかもしれない。もしかしたらすでに何か考えてるかもしれないが、受け身ばかりなのも悔しい。
何かないだろうか? 自宅で、二人きりだからこそできること。その中でも、普段ならなかなか叶わない特別なこと━━。
「━━っ!?」
ふと脳裏に浮かんできた如何わしいイメージに、リィンはギョッとして頭を振る。
何を考えてるんだ? ありえない!
真っ先に『そんなこと』が候補に上がってくるなんて褒められたものじゃない。教官失格ものだ。
……でも、ずっと気にはなっていた。
クロウはいつも優しくしてくれるけど、自分はちゃんとできているのだろうか、と。
「リィン??」
「!?」
ハッと我に返ると、いつの間にか至近距離にまで顔を近づけたクロウがジッと覗き込んでいて、悲鳴が上がりそうになったのを間一髪で何とか堪えた。
「な、なんだ?」
「もし何かやりたいことがあんなら、遠慮なくお兄さんに言ってみな?」
「え? えっと……」
ここは、この『もやもや』をスッキリさせる絶好のチャンスかもしれない。
さあ、腹を括れ、リィン・シュバルツァー!!
「その……耳を貸してくれないか」
「何で?? ここ自分んち━━」
「いいからっっ」
「お、おう??」
クロウは顔を正面へ戻し、リィンに向いた側の耳にかかる長めの髪をかき上げた。
さりげない仕草に目を奪われてしまうが、今はそんな場合じゃないと振り払って耳打ち体勢に入る。
「あのな……こそこそ……」
━━言えた。
言ってしまった。
恥ずかしすぎてギュッと目を瞑ると、顔が、というより全身、沸騰したかのように熱くなっているのが嫌というほど解る。
なのに、クロウからは何の反応もない。
もしかして聴こえなかったのだろうか?
不安になってうっすら瞼を開くと、ギギギ……とまるで錆びついた人形のごとく首を動かしたクロウと目がかち合った。
「…………へ??」
その口から飛び出した素っ頓狂な声を聞いた瞬間、猛烈な羞恥心に襲われたリィンはその場から離れようと身を翻す。
「ごめん今の忘れてく」
「まてまてまてっ!!ちょいまてっ!!」
「うわっ」
慌てて引き留めようとしたクロウに服ごと引っ張られて、よろめいたリィンはたまらず後ろへ倒れ込んだ。
気がつくとクロウの膝の上に横抱きのような格好で尻餅をついていて、ガッチリと抱き締められていた。
「なっ、危ないだろっ!?」
「わ、悪ぃ。……けど、お前……それ、マジで言ってんの?」
「……うん」
「熱は、ないな? 混乱もしてねぇよな? じゃあこいつは夢か? 幻か? はっ、まさかの偽物だったり!?」
「ぜんぶ違うし、現実だから」
珍しく狼狽えて早口で捲し立てるクロウをどうどうと宥める。それくらい、さっき伝えた言葉は彼にとって青天の霹靂だったのだろう。
しかし、こうなったからには最後まで伝えなくては。向かい合って、目を反らさずに、しっかりと。
「クロウ、もしかして……我慢、してないか?」
「━━っ」
体が微かに強張る。図星だったらしい。
普段は本音を滅多にさらけ出すことのないクロウだが、今やリィンが関わることになると誰の眼にも解りやすいレベルにまで感情表現が顕著になる。
……クロウ自身がわざと周囲を牽制しているケースも多々あるのだが。
夜だってそうだ。リィンを抱くときの銀朱の瞳は、極上のご馳走を手に入れた獰猛な獣のように欲情が剥き出しになる。
なのに、触れる手は慎重すぎるほどに優しいのだ。傷つけてしまわないように、壊してしまわないように、汚してしまわないように、と。
「気遣ってくれるのは嬉しいよ。でも俺は、もっとクロウのことを知りたいし、もっと満足してもらいたい。……だから」
心配も、遠慮も、する必要なんてない。
自分を支える大きな腕にそっと手を添えて、リィンはふわりと微笑んだ。
「見せてくれ、クロウの "本気" 」
少しの間が空いて。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
目を丸くして呆然としていたクロウは、がっくり項垂れて盛大なため息を吐いた。
「ホンット、お前にゃ敵わねぇなあ」
そして次に顔を上げたときの表情は、真剣そのものだった。
「━━いいんだな?」
「うん」
「ほんっとーーーーに、いいんだな??」
「いいよ」
「後から『やっぱり無理です!』とか言われたって、止めらんねぇぞ?」
「クロウこそ、そんなこと言って俺の考えが変わると思ったら大間違いだからな?」
「うぐっ」
キッパリと返されて、クロウは観念しましたとばかりに肩を竦めた。
「ったく、色気のない誘い方しやがって」
「悪かったな」
「ま、そーいうとこも好きなんだけどな」
「あ……」
不意打ちに頬を染めるリィン。
それを嬉しそうに眺めていた笑みは、次第に不敵な笑みへと変わっていく。
……あれ、何だか嫌な予感がする。
そう感じたときは、もう手遅れ。
「週末、覚悟しとけよ?」
クロウはそう告げるや否や反応が遅れたリィンを抱きかかえて立ち上がり、そのままスタスタと歩き出した。
行き先が寝室だと気づいたリィンは混乱してジタバタと暴れ出す。
「ク、クロウ!? ちょっと待て!! 降ろしてく」
「やーだね。まずはさっき煽ってくれた分の埋め合わせをしてもらわねぇとなあ?」
「煽っ!? いや、ダメだぞ、明日は仕事が━━んぅ!? んんんーっ!!」
続く言葉は簡単に封じられ、振り上げた拳は縋るように彼の服を握り締める。
細身とは言えれっきとした成人男子を軽々とお姫様抱っこしたままがっつくなんて腕力が規格外すぎるだろ!?という文句も言葉にならず、ボヤけていく。
抵抗がすっかり弱まったところでようやくリィンを解放したクロウは、それはそれは清々しいまでに吹っ切れた様子でニッコリと微笑んだ。
「だーいじょーぶだって。今日のところは手加減すっからよ♡」
「~~~~~~っ!! このっ、バカクロウ!!!」
後悔すれど期待は十分。
複雑な想いを乗せた叫びを残して、寝室の扉は閉じられた。
『本気』のホワイトデーまで、あと少し。
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ゼムリアの新聞に週間天気予報があるかわからんというかむしろないと思うんですけどそこはスルーでお願いします(白目)
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