コードギアス復活のルルーシュ、もうあのルルーシュはC.C.に再構築された別人であり、元のルルーシュではありません。私の見間違いでなければ瞳の色すら違います。
さらに言えばルルーシュの瞳の色、前半と後半で色に変化があるように見えました。明確に、ナナリーと二人Cの世界から戻ったルルーシュの瞳は、色が鮮やかになる。前半のルルーシュの瞳は何だか青かった。彼のアメジストには、赤が足りなかった。赤が足りなかったんです。
これがどういうことかと言うと、ルルーシュであってルルーシュでなかったものに、ルルーシュの心を付与したC.C.は、本当に「自分がルルーシュと思うもの」しか与えなかったんですよね。というか与えられなかった。Cの世界を漂う膨大な精神の中で、C.C.がルルーシュと思えるものを掻き集めたらそうなるんです。ルルーシュが作戦を諦めようとした時、C.C.が「己の思うルルーシュ像」を彼に押し付けるシーンがありますが、あれ、C.C.と出会ってからC.C.に見せているルルーシュの部分しかない。例えば私からするとルルーシュを構成する一番大切なものは「ナナリー」であり、次点で「スザク」だと思うんですが、C.C.にとってはそれは自分が見てきたルルーシュに大切でないものである訳です。C.C.の見てきたルルーシュが諦めないものは己の思想であり、作戦であり、一度決めたことであって、ナナリーではないんです。ずっとナナリーこそが世界だったルルーシュを見てきたのにね。人間は己の見たい世界しか見ることが出来ない。私が、C.C.の共犯者でない部分を十年も見逃して来たのと同じです。
自分が違う生き物になったことを、ルルーシュはあの監獄で復活した時には自覚していたように思います。だから「ただいま」とはC.C.にしか言えなかった。そこにはC.C.の前の自分しかいなかったからです。いくつもの顔があったルルーシュは、もうたったひとつの自分しか持っていなかった。だから、あの時にはもう決めたんです。自分がC.C.としか生きていけないこと。それは、己がした約束の責任をとることだから。
復活したルルーシュにはきっと、ナナリーを大切に思う気持ちも、スザクに対する執着も、最早世界の明日を願う心も、殆どなかった。仮染でした。
だから寧ろ、C.C.から一切与えられていない気持ち、「スザクを助けナナリーを救いたい」という気持ちこそ、あのルルーシュの虚ろな身体に最後まで残って、あの身体を動かしていたものなんだろうと思いました。殆ど残っていなくて、C.C.に与えられたものに時折潰されそうになっても、それは確かにあったんです。
カレンが「なんか変わった?」と言うの当たり前で、C.C.は「カレンに対するルルーシュ」を知らないので、そのルルーシュを取り戻していないからです。カレンにはカレンのルルーシュがあって、それも確かにルルーシュの一面でした。この先も永遠に戻りませんが。
彼はルルーシュ・ランペルージになりました。復讐を誓って名乗る母親の旧姓ではなく、C.C.と過ごしたのが学生のルルーシュ・ランペルージであったから。C.C.が最も知っていたルルーシュは、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではないんです。
たった一度「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」を名乗って、違和感を覚えて、もう自分はそれではないと知った。より近いのが、どちらかというとランペルージだけど、それも違うのは分かっていた。でも、自分を知る彼らの前に立つには、彼らの知る名前が必要だった。
枢木スザクに本当にルルーシュか聞かれて、「確かめてみろ」と判断を任せるのは自分でも自信がないから。決して同じものではないから。「君と僕で出来ないことはない」とスザクに同意を求められても、笑って即答できない。言い淀んで、それから顔も映さず言葉だけが落ちる。コードギアス反逆のルルーシュでは、世界のルールだったそれは、もう、ルルーシュの中になかった。「俺とお前が組んで出来ないことはない」ことを、ルルーシュはあの時記憶としてはあったけど、全然、信じられなかった。だから、作戦が上手くいかなかった時だって、スザクは浮かばない。
あの時のルルーシュには、C.C.という選択肢しか用意されていない。
Cの世界で兄に触れたナナリーが、戸惑うのは、それが自分の知る兄ではなかったから。自分を見詰める瞳が、触れる手が、自分を世界で一番愛してくへなかったから。だけどナナリーを迎えに、Cの世界に行って、喪ったものたちに助けられて、ルルーシュはC.C.の為だけに再構築された身体に、ナナリーの求める、ナナリーの知るルルーシュも得てしまった。赤も得てしまった。
もう、C.C.と生きることを決めたのに。
愛しい妹、それから、大切な親友。それでもルルーシュには他の何もかもが足りず、また、その足りない自分を明確に求めている存在はC.C.しかなかった。だってナナリーは「一緒に暮らしましょう。昔のように」と言うし、かつてゼロをゼロたらしめるものを「心」だと言ったスザクの前でもう世界の明日を願って死ぬことも出来ない心を持った自分がゼロになれる訳もなかった。
彼は、もう、自分のことを人間と思うことが出来なかった。復讐も平和への渇望も、責任も、願いも、愛も執着も、自分の死さえも、彼を動かしていたものは、なんにもなかったから。
コードギアス復活のルルーシュ、復活したのは、「ルルーシュ」であって、「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」でも、「ルルーシュ・ランペルージ」でもなく、最初からL.L.だった。