ペッパー・ポッツという女性は本当に何から何まで素晴らしく、愛に満ちて、聡明で、強いひとだった
タイムトラベルの件で、スティーブとナターシャ、スコットがトニーの元に訪れたとき、断るトニーに「君の家族は無事だけど、俺の大事なひとは消えた」「消えた人たちを取り戻せる」という言葉を投げかけていた
分かる、言いたいことは超分かる。
みんな大事なひとたちがいなくなって、救えるのであればどんな手を使ってでも救いたい、藁をもすがる気持ちだということは、わかってる。
わかってる上で言わせてもらうと、なんて残酷な脅し方なんだと思ってしまった。
そんなつもりで言った台詞じゃないとは思う、だけどそれを"トニー・スターク"に言うのはあまりにも酷だ。
この時のトニーは前に進もうとしているひとだった。スティーブがカウンセリングセラピーで「前に進んでいて偉い」と褒めたひとたちと同じだった。サラダを食べてる最中に泣いてしまう彼らと。それを責め立てるように聞こえてしまったのが、あまりにもつらかった。
今までだって、救えた命を救えなかったことに対して自分を攻め続けて犠牲にしてきた。
そしてこの5年間でなによりも大切な家族を作り上げてきたからこそ、失ってしまった人たちの悲しみは痛いほど分かるだろう。トニーはそれを絶対に引きずる。
なんてえぐり方をするんだ……と思っていたら、モーガンがやってきますよね。
「ママがパパを助けてあげてって」
ママが呼んでる、とか、ご飯できたよ、とか、話を中断する手段はたくさんある。それでもあえて"助けてあげて"と言ったんだよ。
パパが困ってるから、怖がってるから、迷ってるから、モーガンが助けてあげてって。ペッパーが言ったのだとしたら、もう言葉にできないよ。すごい。すごすぎる。間違いなく、道標だ。
タイムトラベルの理論が完成したとき、ペッパーに報告するトニーが言った言葉、「時々声がするんだ。そんなの放っておいて寝てしまえって」に対して、ペッパーは優しい顔で「あなたはそれで本当に眠れるの?」って聞くんですよね。
それから、トニーが死んでしまうときに言った「ゆっくり眠って」という言葉。これをやりきらない限り、みんなを守りきらない限り、トニー・スタークが眠れないことを、ペッパーは最初から分かっていたんですよね。だから、たぶんこのとき覚悟を決めていると思うんです。
あのときだって、誰よりも聡明だった。
トニーのリアクターに触れてフライデーに真っ先に状態を聞くんですよね。ここでもし助かる見込みがあったら、別の言葉をかけていたと思うけど、もう無理だとわかった段階で、「こっちを見て」って言う。
「大丈夫。ゆっくり眠って」って。
最後まで泣いたりしないで震えながら笑顔で言うんですよ。ペッパーが泣いたのは、トニーの心臓が止まってからで、トニーの視界に映るときは涙は見せないの。
このとき、ペッパーはトニーの心の平穏を第一に考えて「大丈夫」って言ってるんだよ。ゆっくり眠って、の言葉には「ようやく眠れるね」も入っていると思うんだ。
トニーはママはパパが送ったものを使わないからな、って言っていたけど、最後の戦いのときにペッパーはトニーからの贈り物(であろう)スーツを着ていたよね。すっごい格好良かったけど、最初は違和感しかなかった。
IM3であれだけスーツを嫌がってたペッパーが(まあ、あんな経験をしていたら誰だって嫌がると思う)自ら着て戦うなんて。
それに、トニーがペッパーを戦場に送るなんて想像できない。モーガンもいるのに。むしろふたりともシェルターから絶対出るなって言いそうじゃない? スーツだって戦うよりも守ることが目的でプレゼントしていると思う。
だけど、「あなたを止めたのは私の数少ない失敗のひとつよ」が答えのような気もした。
クローゼットの中に入っていたのがシャツじゃない可能性が、現実にあったから。そしてそれを自分の好きなひとを蝕むことを知っている。
愛するひとを守るために戦う道を選んだペッパーが、気高すぎて本当にかっこよかった。
IM3でトニーはペッパーのことを「完璧だ」と言った。「ペッパーは完璧だ」と。
「心が壊れないのは君がいるから」とも。
悪夢で飛び起きて不眠症とパニック障害になったトニーが、宇宙船で言ったのは「君の夢をみるよ。いつもみたいに」だった。悪夢は愛しいペッパーの夢に変わっていた。こんなにも深い愛。
トニー・スタークの心の平穏で、道しるべで、支えで、全部だった。トニーがペッパーに出会えてよかったし、ペッパーがトニーを選んでくれて、愛してくれて、本当によかった。