『ミッドサマー』のネタバレあり、私個人の解釈と感想。
ようは主人公ダニーがホルガ村のペレの誘導により数々の精神的強姦を受けた末に完全なる女王として目覚めるまでの物語なんですが、(以下続く)
旅が始まる前からダニー姉妹は他人に感情を伝染させ一緒になることを強要する傾向があるのを書かれてる。彼氏が自分にスウェーデン旅行について話してなかったことに異様に食いついて腕を引っ張るシーンは象徴的。ここでまずゾッとした。
彼氏クリスチャンは表面上は優しいですが自主性がないというかいい加減な男です。何考えてるか今ひとつわからなかったんですが、とにかく行き当たりばったりですね。4年もずるずると介護し続けて疲れ切ってるのに切り捨てることもできず、取り繕うのも下手。旅行のことを伝えそびれたり、彼女の誕生日を忘れて慌てて取り繕ったり(しかし私が念押ししなかっただけとか言うダニーお前……)、突然友人の下準備とか無視してここの論文書くわとか言い出したり。本来は変なセミナーに誘われてなし崩しに入信しちゃう側の人間だと思いました。だが信心が足りないし無能です。
この時点で側から見たダニーは「不幸な教祖」でクリスチャンは「無能な信者」という構図ができあがってるんですね。
そして祝祭。肉親の死で傷ついているのに飛び降り自殺の現場を見せられ(誰も止めない!)薬物を飲んで走り回って疲労しつくしたところへ「言葉がなくてもダンスで通じ合ってる!」と思い込まされ(このセリフが出た途端相手が倒れるのが笑える。前後の流れからして絶対村側の予定調和でありそこに真の通じ合いなどない)、その後彼氏の「裏切り」行為(もちろん村側が仕組んだよ!)を見て完全に心が折れた時に村の娘達により決定的な精神の強姦をされます。
それが皆で呼吸を合わせて泣き叫ぶシーン。
苦しみの共有シーンは飛び降りの時にもありましたが、正直あんな恐ろしいレイプシーンは初めて見ました。恐ろしすぎて笑った。怖気がした。勝手に感情を「共感」しているかのような演技をして自我を奪っていく集団強姦でした。クリスチャンが村の女達に囲まれて種馬にさせられているシーンと交互に画面が変わることからしてあれはどっちもレイプでしょう。
個人的な体験ですが小学生のころ先生に怒られて泣きながら下校した時に普段自分を見下してくる女子達が囲んできてよしよし☺️を受けながら帰った時の”自分と関係ないことを何故か貴方のことよと言われているような理不尽への屈辱、怒り”の感情を思い出しました。
まあ行為を見るのを止めたのも娘達ですけど、全く必死さがないので別に見ても見なくてもいいというか、何あの微妙な反応。
でまあ色々あってモブはなんか知らんうちに死に、ダニーは女王になり、クリスチャンは「あなたは口も聞けないし動けないけど大丈夫よ」と何も大丈夫じゃねえ保証を押し付けられ、ペレは褒められ、生贄が燃やされ、皆生贄の絶叫(というかクリスチャンの絶叫の演技)を聞いた村人達がまた「共感の演技」をして泣き叫び、最早自我をズタズタにされたダニーも泣き叫ぶのですが、最後に突然微笑みます。
村人達に合わせるなら再び一緒に泣き叫び続けるべきでしょう。しかし彼女は周囲を見渡してホルガ村が自分の真に求めていた「信者ども」=依存対象しかいない場所だと悟るのです。彼らはクリスチャンに比べて彼女を騙すのが上手い有能な人々なのです。
こうして邪悪な女王が誕生しました。どうなっていくんでしょうねこの村。あの調子じゃどうせ90年周期とかいうのも嘘でしょ。ここでは皆で共有したことだけが「本当」なんですから。それは外の世界でもいえますがホルガ村はヤクと反社会的な暴力的な儀式によって作られた絆で強固になっていますね。飛び降り自殺の時のダニーの様子でも描写されてますが薬物だけでなく過度な恐怖を引き起こす儀式は思考を縛りつけます。
しかしペレは恐ろしいですね〜!薬を日常的にやってる軽薄な馬鹿と心を壊しかけている女性がいるコミュに目を付けて友達になり祝祭へ招待する日を待っていたのでしょう。彼氏がいない隙を狙って優しい言葉をかけてから的確に心をえぐり、また優しく接する繰り返し。
自分も両親を失ったけど村のおかげで喪失感なく育つことができた、「一切干渉を受けずに。それがこの村のやり方だ」とかお前先にヤク勧めた口でよく言うな!?ここも酷すぎて笑った。
でもまー彼もあんな死ぬとは思ってなかったとは思います。想像以上の馬鹿集団だったからな……トニーの存在意義とか賑やかしの被害者以外に何も無かったな?