日曜日にマタハリさんの朗読劇に行った話(ネタバレあり)
半年ぶりに名駅に行った。
桜通口から太閤口まで人が居なくて丸見えだと、Twitterに投稿されたのはいつだったろうか。確かに日曜日にしては、まだなんとなく人が少ないかも知れない。いつもより歩きやすい。普段は敬遠する駅の構内を歩きながら、半年ぶりの名古屋駅を通過して、私はマタハリさんへと向かった。大人の文化祭と銘打たれた朗読劇を観るためである。
最初に断っておくが、私はお芝居に詳しくはない。朗読劇なるものに行くのも初めてだ。公演がまだ二回あってネタバレも憚られるし、明後日な事を書いてしまったら申し訳ないという不安はあるけれど、せっかくなので感じたことを書いてみようと思う。
「夜の分断、朝の逆光」朗読劇のキャストは四名。みな白い衣装を着ていて、巫女的、語り部的だった。
お店の白い壁にはプロジェクターで写真が写される。4人の人間の生のセリフと効果音で進む物語は、想像以上の没入感である。そして
くらっしゅのりお氏が話し始めた時に、ぐぐっと物語が深度を増したのがわかった。プロはすごいなと改めて思った瞬間だった。
一話目、やまぐちみやび氏作の「朝の逆光」は、世の中がこんなときだから繋がる二人の物語である。
プロジェクターで映される景色は日常風景であるが、人がいない。その風景の前で男女の会話が続いていく。中央でめくられる曜日カレンダーが時間を表すのだが、二人の会話の間に淡々とめくられていくそれに、ああそうだよなあんな風に無造作に日々は過ぎたよな、と演出の巧みを感じた。
何月何日とかそういったものが希薄になり、例えばゴミの日だけが生活の輪郭になる感じに似ている。
そんな異常な生活の中で、バイクの持ち主と通りすがりの人間が、会話を(間接的に)やりとりし始める。
世の中がちょっとだけおかしくて、磁場が狂っている。そういう時にしかない出会いを描いた物語は自然で、キャストの演技力もすばらしく、ぐいぐいと世界に引き込まれて行った。
気がつけば、そんなおかしな日々はもう過去になりつつあるのだと、物語を聞きながら私は感じていた。
磁場はもとにもどりつつある。後遺症としてたくさんの歪みを残しながらではあるけれど。しかしその歪みのおかげで、また繋がる人たちもいるのだろう。「朝の逆光」は光の射すストーリーだった。我々は失ってばかりではない。
どんな状況でも毎日はなんとなく続いていて、月曜日の向こうにはやはり火曜日という未来が並んでいる。
二話目「夜の分断」はりりこさん作。一話目とは対照的に、薄く闇が広がる「こんなときだけど」の物語だ。
画面に映るのは不吉な穴。廃墟に降る雨。誰もいない駅。音楽ではなく、終始不思議な音が鳴っている。
「穴」が開いている、と電車に乗って街を出る主人公。それまで普通だったことが禁忌になるという、世相を風刺するかの如き緊張感のあるストーリー。しかし垣間見える人間の生臭ささが面白い。自粛期間中、不謹慎という言葉を何度目にしただろう。そういう圧力の下で個人に開いている見えない「穴」を思うとき、この物語はフィクションを越えて迫って来る。
そして、物語を聞きながら次第に、境界とは誰が作るものであろうか?という問いが、私のなかで膨らんでいった。ホラーかと思うような導入で身構えたが、話がすすむにつれて、もっと別の怖さを考えさせられる話だったと思う。
今日と昨日になんの違いがあるのか?
誰かが引いた線を越した。
その事をめぐる煩雑な手続き。
誰のためになんのためにそれをするのか。
大切に厳重に守っている「それ」の真ん中に真っ黒い穴があいてるんじゃないのか…
そもそも、その穴はずっと前から開いていて、見ないふりをしていただけなんじゃないのか…
それは無数に、大量に、気持ちが悪いほどにびっしり、存在していやしないか…
こんなときだけど、の面白さがあるストーリーである。半年前にこれを見ても、まったく別の印象になっていただろう。穴という言葉に結びつく、あらゆるイメージが重なり、絡まり、そして落ちていく物語だ。
演者の楽しんでいる感じは、たしかに文化祭なのだけれど、大人だから出来る本気度とクオリティは流石である。「こんなとき」を大切にした40分。一期一会などとありふれた言葉で片付けるのはもったいない。今しか出来ない、今だからやる、今だから本気でやれる。瞬発力のある舞台だった。見に行ってよかったと心から思った。ぶっちゃけ期待以上に面白かった。打ち上げ後呑み会について行きたくなるタイプの高揚感である(それはまだ時がなゆるさないけれど)。
自粛期間で各々が失った(もしくは得た)なにかに名前をつけてラベリングして、ファイルするなり額装するなり出力する時間が、これからは益々必要になるだろう。その先駆けとして、この朗読劇はあった。そして、現在ぶっちぎりの一位である。
さてさて、素人が思うところを思うがままに書いてしまったので、間違いや失礼があったら平にご容赦願いたい。どこから目線やねん、というご批判も甘んじて受けたい…これはただの個人の所感であり…
いや、あのすみません、やっぱ調子のりました許して…