リズと青い鳥を3回見て、パンフを読んだ上での感想まとめです。URLからどうぞ。約4000字。
#リズと青い鳥 #響けユーフォニアム
【リズと青い鳥 感想】
傑作。
TVシリーズや劇場版前2作のような、起伏があり盛り上がるタイプの作品ではなく、、静かに要素が積み重なっていく(by舞台挨拶)作品。
全般通して見ると、コンクールという分かりやすい盛り上がり場所が排除されているため、ある種一本調子で話が進んでいく。学校だけを舞台にしたのは、鳥籠をイメージしたため(パンフ情報)とのことでそれはそれで納得。単調になるのを避ける役目を果たしているのが童話パート。舞台挨拶で本田さんメチャクチャ怯えてた(炎上怖がってたみたい)んだけど、監督の言葉を借りれば「色を付けない」演技、素人というか子供の朗読のような童話パートは、神の演技力を発揮した種﨑・東山コンビの声とは良い対比になっていたのではないか。
タイトル画面が出るまでの、みぞれと希美がただ歩くだけの導入で、この映画がどれだけ『音』にこだわっているのか伝わってくる。朝登校してタイトル表示→夕方下校してエンドロール。一本の映画が一日の流れともリンクしてて美しい。
剣崎梨々花は救い。キャラデザと原作の口調から、もっとギャルっぽい喋りなのかと不安に思ってたら、すごくふわふわしてて人懐っこさが伝わってきた。みぞれと二人の合奏シーンは本当に救いの極みだし、オーディション落ちて初めて泣いたのがみぞれの前だったと思うともう……。
序盤、みぞれの「本番なんて一生こなければいい」に強い衝撃。TVシリーズ関西大会で、コンクールが好きになったと、あんなに素敵な笑顔で言ったみぞれがこんなこと言っちゃうの……別世界線……? 冷静に振り返れば、去年は希美がいなかったわけで。希美とずっと練習したい、その時間が終わって欲しくないという意味と解釈。
最初の合奏練習シーン。部長の言葉で「全国大会金賞が目標」と語られる。全員で頑張ろう、オーディションに落ちても支えよう、とも。これ以降、コンクールについて触れられる場面は一切無し。オーディションも、梨々花が落ちたと泣く場面だけ。北宇治吹奏楽部のレベルがどの程度か、前年はどうだったのか、という点は、物語の主題ではないとはっきり提示される。
大会関係と同じく、ぼやけた、主題ではないと示されるのが、作中の時間・時系列。音楽室の場面では、全て時計の文字盤が見えない(消される)。何月何日、と示される場面は皆無。「(図書室の本)返却期限、一ヶ月も過ぎてる」「もうすぐあがた祭り」「もうすっかり夏」「オーディション落ちた(終了した)」。原作が『京都府大会後』『夏休み中』『合宿中』とはっきり時間経過が示されるのとは対照的。学校という閉じた鳥籠の舞台(パンフより)、という印象がより強まる。
梨々花がみぞれとの距離感を希美に相談するが、原作は黄前相談所こと久美子に相談。登場人物の整理と同時に、希美の(表面的な)みぞれ観の説明。原作読んだら、久美子の方が深掘りして答えてた気がする。
フルートパートは始めから終わりまでにぎやかで女子会的会話しか映してなくて……これ本当に北宇治? 大丈夫? 映らない所できっと希美も締めていたんだろうけど、やっぱり前年度の、どのパートも真剣に闘っていたのが、急に消えてしまったように見える。パートリーダーが途中復帰の希美、というのも関係しているのかな。
大好きのハグ低音パート編。W鈴木いいいぃぃぃぃぃ。突如濃厚な原作読者向けファンサービスを放り込んできて、しかも物語上必要な場面という神ファインプレイ。身長差が思ってたよりありすぎる! 次見る時はちゃんと久石奏を探します。
大好きのハグのぞみぞ編。自分から両手を広げておいて、ハシゴ外した上に頭を撫でるとかいう超絶マウント行動を自然に取ってしまう傘木希美。本当にコイツはよぉぉぉぉぉ。また、後半での2回とも、結局みぞれからで、希美からはハグする気が無いんだよね……。
希美と夏紀の会話「青い鳥はまたリズの所に帰ってくればいい」。一度はみぞれ(リズ)から去った=吹部を退部していた希美(青い鳥)が、自覚的にこれを言うからタチが悪すぎる。最高かよ。自分を正当化する、というよりは、バツが悪いのを誤魔化しているイメージがあるけど。そういう内容だから、話す相手が自分に対して一番甘い夏紀なんだな。やっぱり希美性格悪いわ。
みぞれと会話中の優子を呼びに来た麗奈、「部長」ではなく「優子先輩」呼び。そうそう、こういう細かい所がポイントになっていくんですよ。
みぞれの演奏に意見する場面、立会人が久美子ではなく優子に。この場に優子がいて会話を聞いていることが、くみれいセッションを眺める場面の優子の立ち位置に関わってくるフラグなのかも。考えすぎかも。
TVシリーズ未見者にはサッパリの、濃厚くみれいセッション。こいつらは本当にもう。演奏後の二人の笑顔がまぶしすぎる。
みぞれが窓の鍵を開けて、二人を見て、また窓を閉める。ここのみぞれはリズでもあり青い鳥でもある。自分で鳥籠の扉を開けられるのに、外には出ないでまた自分で閉める。青い鳥として飛び立つ踏ん切りがつかないみぞれ。……そんな無理解釈。
新山先生との会話を経て、クライマックス、第三楽章演奏シーン。
滝先生もはしもっちゃんも問題していた序盤の演奏とは、はっきり音圧が違う。希美の「手加減していた」がピタリ当てはまるような演奏。自由に飛び立つ青い鳥が、画面演出と相まって自然と心に入り込んでくる。TVシリーズ及び前劇場版の、大会で分かりやすく盛り上がる合奏とは違う、実に静かなクライマックス。感動的だけどちょい難解? 受け止め方が難しい。
演奏後、黄前久美子の二つ目の台詞「自分の演奏に集中できませんでした~」実に黄前久美子。ともよ様、お仕事お疲れ様です。エンドロール名前付きキャラで一番台詞少ない? はしもっちゃんのが台詞長いね?
夕方の生物室。クライマックスその2。
原作では、合宿でみぞれ覚醒→関西大会直前にのぞみぞハグ会話、の流れで、数日の間が空いている。それだけに映画だと、希美の告白が唐突に見えるかも。とはいえ、夏紀&優子に色々吐き出した姿を見るに、みぞれの存在をプレッシャーに感じて、もう内に溜めていられなかった、と解釈するのが自然か。
大好きのハグ。ハグまでののぞみの動きの描き方が美しすぎる。両手を希美の背中に回し、おそらく力を込めて抱きしめているみぞれ。戸惑うように、みぞれの背中にそっと手を添えるだけの希美。対比がたまらない。
みぞれの、沢山の「希美が好き」に対して、希美の「みぞれのオーボエが好き」。みぞれの「希美が好き」は原作よりだいぶ台詞が増えていて、それだけに『希美のフルートが好き』と言わなかったことが際立つ。希美→みぞれは音楽への尊敬と嫉妬で、みぞれ→希美は人間としての憧れと恋慕。最後まですれ違う二人、果たしてハッピーエンドと呼べるのかどうか。
沈黙の後、けらけらと笑う希美。パンフによれば、中の人東山さんは実際に演じるまで、自分が笑えるのか不安だったそう。個人的には、哀しさ・むなしさが痛いほど伝わる会心の演技だったと思っています。
ちらりと映される、希美と夕日と藤棚。その藤棚はTV1期くみれいの聖地!!!ファンサービスありがとうございます!!!
図書室のシーンの後、歩く二人の背中。みぞれは音楽室へ。希美は図書室の机へ。みぞれは音楽に向かい、希美は普通の受験勉強へ。分かりやすい対比だけに、リズと青い鳥の別れと重なる。
夕日の中、共に下校。希美は「みぞれのソロを支えるよ」と言い、みぞれは「オーボエを続ける」と返す。種﨑さんのインタビューによると、みぞれは希美と別れても大学でオーボエを続ける、という、覚悟と成長の象徴の台詞。個人的には、希美が好きと言ってくれたオーボエを続けるよ、という、希美の鳥籠に囚われたままの重い愛の台詞。どちらが、と割り切れるものではなく、そういった諸々を込めた台詞なのかなと。明文化されない情報が多い映画って製作陣自身が言ってるし。
希美の背中を見ながら歩くみぞれの構図は、冒頭と同じ。でも初めて希美が振り返って、みぞれが一番の驚きの表情を見せる。希美の表情は一体どんなものだったのか、想像するしかないのがもどかしくも楽しい。
スタッフロール後半のメインテーマソングで、やっと現実に戻って来れた。お疲れ様でした。
「顕微鏡で覗いているような」(by種﨑さん)、のぞみぞフューチャーのこの劇場映画。そこには、全国大会を目指す吹奏楽部の、若者たちの多様な人間模様と、音楽と向き合い闘う青春の図は存在していなかった。完成したものを見た今では、みぞれと希美“だけ”を描くにあたり、たしかに上記の要素は不要だったように思う。思わされてしまう。それだけの力がある映画であった。引き込まれた。
では、『リズと青い鳥』は『響け!ユーフォニアム』か?
個人的には、あくまで番外、スピンオフ。これは本編ではあってはいけないと思う。一本の青春映画として、今までのユーフォ作品の流れを踏まえた上で、楽しんだことは事実。それでも、大会という要素をオミットしたものが、響け!ユーフォニアムであるとは認めたくない。ツイッターに書いた「スピンオフの単品としては大傑作、ユーフォシリーズとしては良くも悪くも超問題作ってことで。」は、おそらく今後変わることのない私の素直な感想です。
もっとも、リズと青い鳥の映像・音楽・世界観――作品に魅せられ惚れ込み取り込まれたこともまた事実。あと最低2、3回は劇場で楽しみ、円盤は一生の宝物になることでしょう。素晴らしい作品でした。