導かれるように間違う
でナトリウムランプの使い方がとても印象的だったのでちょっと長めに語ります、ネタバレを含みます!
今回、客席上空を見上げるとナトリウムランプという照明器具が仕込まれていました。(違ったらごめんなさい)
ナトリウムランプは主にトンネル内部の照明などに使用されていて、オレンジ色の光と視野が色を失ったように感じるのが特徴です。(細かくは後ほど)
舞台演出などではナトリウムランプの特性を活かし、舞台上の色味を減らしたい時などに視覚効果として用いられます。
話は変わって今回の会場である小ホールですが、このような三方囲いの劇場形式は客席が舞台を囲み観客がお互いの存在を意識し易い構造です。
一般的なプロセニアム形式に比べると、劇場構造が演出に作用し易いとも言えるでしょう。
そのため、観客の存在をどう作品に組み込むか、は大喜利のようで毎回楽しみなんですが、今回は舌を巻きました。
「導かれるように間違う」では劇中ほとんどの場面で空間全体を照らすようにナトリウムランプを点灯していました。
観客が初めてそれに気づくのは中盤のぬいぐるみが話し出す場面でしょう。
瞬間的に空間全体がオレンジ色の光になり、ある者とぬいぐるみのみに色が残って、それ以外ははっきりとモノクロに見えるようになります。
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さて!なぜ、こう見えるのか少し噛み砕くと
(オタクの早口語りだと思って流して構いません)
人間の目は色を光の反射によって認識しています。太陽光などには様々な色の情報を目に伝える波長が含まれていて、光が物体に当たりどの波長の反射が目に入るかによって色の差が生まれます。やまびこが山から音が跳ね返ってくるような状態です。
ナトリウムランプはオレンジ色に発光しているように見えますが、実際はオレンジ色の波長だけ物体を反射する性質を持っています。そのため、単色の明暗のみを視覚情報として捉えて視野がモノクロになったように感じます。
じゃあ、どうしてある者とぬいぐるみは色がついているように見えたのか、というと、
劇場空間全体がナトリウムランプに照らされる中で唯一"普通の光"(便宜上そう呼ばせてください)が当たっていたからです。
ピンスポット(ググるとあーあれね!って分かると思います)が2人に照らされ、それには太陽光と同じ様々な色を認識できる波長が含まれているので、その光に当たっている部分のみが色が付いているように見えるという仕組みでした。
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長々とすみません、
さて本題に戻ります!ナトリウムランプは冒頭診察の場面から徐々に光量を上げて、ぬいぐるみが喋り出すシーンで初めてナトリウムランプだけの空間になりました。観客はあるもの以外の世界がモノクロに見え、お互いないし自分自身に色がないことに気づいたと思います。
この状況が私には色のない人間達があるものを包囲し監視しているような構図のように見えました。
皮肉にも、あるものは外に出たら光がカラフルな世界がある(うろ覚え)と言いいますが、病院(≒舞台上の虚構)の外にいる私たちはモノクロだし、あるものの背後にある外を象徴するような3枚の絵は光の三元色の赤青緑に分解されています。
挙句にはぬいぐるみがそんなものはない!と叫びますし、私にとってあまりにも地獄の空間でした。このゲス熊め…
そもそも、客席に照明機材を点灯させ続けるのは特殊な演出なので特別な意図がなければあまりやりません。
ここまで観客の存在を在るものとして互いに認識させたうえで最悪な形で舞台装置として作品に組み込まれた感覚は初めてでした。
前述したように、ナトリウムランプ自体は冒頭の診察の場面から点灯されていて、客席や光があまり当たらない場所の色味が落ちていたことに気付く人もいたかもしれません。
無意識的にゆっくりと世界の色が失われていて、劇場のライトが当たる虚構の空間のみに色が残るような状態になっていたんですね…こわ……
また後半では、ナトリウムランプの光量が増し反対に"普通の光"が当たる箇所が減っていきます。
光には方向性があるので役者の顔の向きによっては"普通の光"が当たらない箇所が生まれます。そこがナトリウムランプよってモノクロに見える面白い現象が起きていました。
特に医師江口が客席正面に背中を向けて土井と対峙する場面で、私の席からは江口の表情がよく見えたのですが、"普通の光"を背に顔は陰りモノクロになっていたのが、彼の抱える葛藤や矛盾など想像出来るものがあり、場と相まって凄く良かったように記憶しています。これは映像や写真に残らない画なので三方囲い形式の作品を生で見る特権でしたね、やった!
長かったですね!ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
舞台上だけでなく客先にまでナトリウムランプを当て続けた照明演出の恐ろしさ、伝わったでしょうか…
余談ですが客入れの時、客席に波のようなエフェクトの光と立体的な波音がしましたね!
開演前から遊び心があるタイプの演目は待つ間も楽しくてワクワクしますし、これからももっと挑戦的な演出が見られると嬉しいです…!