2年間シャルル=アンリ・サンソンを好きだった人間のセイレム感想。考察ではない。誰が何と言おうとセイレムはFGOというゲームがシャルル=アンリ・サンソンという人間にできる最大限の救いの物語だったという話。
まず新宿の話をさせてほしい。
これは別垢でも言ったことなんだけど、私は新宿13節でジャンヌオルタが言った「そうすればこの鬱陶しい何かが消え去るはずだって信じて!」っていうの、1章オルレアンでの多くの敵の行動理由そのものだと思うんですよね。
ジャンヌオルタ以外だと術ジル、ファントム、狂ランスロットとかはマイルームでも1章と大きく変わらないから分かり易いんだけど全員大きな苦しみや悲しみを持っていて、それが原因で狂化や精神汚染が付与されておかしくなっている。その上でどうにかしてそれを消そうと必死になっているというか。
その中でサンソンは1章で無理矢理狂化を付与された結果完全に発狂している(※マテリアル情報)。ジャンヌオルタの言葉は1章のサンソンが言った「そうすればきっと、きっと君に許してもらえると思ったから……!」がそのまんまで、このサンソンは自分の中でずっと渦巻いている苦しみを消す為に必死だった。
だから1章のサンソンとマイルームでの差が激しいのは当たり前で、幕間で言っているように通常のサンソンは「僕の煩悶は死して尚付きまとう」ということを分かっているし、それをどうこうする気もない。幕間で語られた通りに辛いし苦しいけど、もう今更どうにもできないことを本人がとっくに悟ってる。
で、セイレム。
これはもうサンソンが自分で言ったとおり「得がたき贖罪の機会」。まさかそれをさせてやるとは思わなくて本当に驚いた。
シャルル=アンリ・サンソンが一番苦しいのは、2700人以上の人間を処刑して結局それを命じてきた人間も全員処刑するに至ったのに、それを実行した本人は生き残ってしまったことなんですよね。サンソンの戦闘開始ボイスの一つは「人を殺すのではなく、その罪から切り離すのだ」なんだけど、サンソンの罪(というかサンソン自身が罪だと思っているもの)は誰にも裁かれなかった。フランス革命が成功した時点でサンソンを裁こうとする空気自体がなかったわけじゃないけど、それは「じゃあ誰が代わりに処刑人をするんだ?」という問題に誰も向き合いたがらなくて流れた。処刑人は忌み嫌われる職業だから。
私はずっとサンソンは永遠に救われないという話をしていて、これは彼の苦しみは全て過去(=史実)にあるからそれを取り除いてしまわないと彼が本当の意味で苦悩しなくなる時は来ないけど、それが無くなればきっと誰より救われたい筈のシャルル=アンリ・サンソンではなくなってしまうからだった。
でもセイレムはその「過去を取り除く」ことを「サンソンが裁かれる」という形でやったんですよ。罪と人を切り離し続けてきたシャルル=アンリ・サンソンが抱え続けた罪を、多分一番望んだ形で切り離した。これ本編でやるとは思わなくてマジで吃驚した……思いつかなかったわけじゃないけど二次創作ぐらいでしか叶わない願いだと思ってた……ほんと最高……
サンソンが聖杯に望む「声高に言うほどのものでは無い」願いは自分が処刑されることだったのかもしれないと思うと悲しいけど、それをストーリーで確かに彼は与えられたんだという事実あまりに最高すぎて脳が溶ける……
(あとサンソンが苦痛で救われたと言っている人を散見するんだけどごめんそれちゃんと読んだ?いや読んだうえでそう思うんならそれでいいんだけど、彼の宝具名とか苦しみを過分なものとして扱う姿勢とか的に違くない……?
苦痛を与えたということの贖罪として苦痛を与えられたことが救いだって言うのは何か違うと思うというか、それでサンソンが救われたなら最後アビゲイルが「私、死んでもいいかしら?セイレムを捨てて、生まれ変わりたいと願ってもいいの?」って言わなくない?アレは死こそが最も深い絶望であるからこそ苦痛は過分とするサンソンの言葉から出てきた考えじゃないの?と思いました)
そこからのエピローグですよ。いやいやあんなの最高でしょ。
シャルル=アンリ・サンソンという男が「やり遂げたのだと思う」とまで言ったのに、多分それは嘘じゃない筈なのに、それでもあの人が剣を探した時点でもうヤバかったけど、マリーの姿をしたものに対して足をぶつけた、わざとじゃないんだって台詞をサンソンが言うのも狡いし「どうか、ゆるしてほしい」って言うのも狡い。正直これ見たとき、やっと言えた、って思った。
これは個人的な考えだけど、もしかしたら、あそこにいたのが贖罪を終えたシャルル=アンリ・サンソンだからああ言えたのかもしれない。マリーというフランスの象徴の形をした存在(この存在は最後まで名前は「???」のままでマリー・アントワネットの名はこの話に一切出てこない。それにマリー・アントワネットの呼ぶ「シャルル」は息子の名前だ。そこも含めてよく考えられていると思う)にサンソンがああ言えたのは、罪を贖って、彼が仕え続けたフランスに許してほしかったからなのかもしれない。そう思うとあまりにうつくしくて言葉を失った。
そして再召喚されたサンソンにセイレムでの記憶はなかった。これあまりに解釈通り過ぎて感謝しかない。
そう、贖罪を終えたシャルル=アンリ・サンソンはもうシャルル=アンリ・サンソンとして成立しない。それをしてしまう前と後じゃもう別人になってしまう。処刑人として生きて、処刑されることなく死んで、その煩悶は死してなお付きまとう。シャルル=アンリ・サンソンはそういうひとだからだ。それを根本から覆してしまうからこそ私はサンソンが処刑される形で贖罪の機会を得る展開はないと思ってたんだけど、こういう風にやるとは思わなかった。すごい。
個人的によく言われるサンソンの先生呼びを絶対しないという話を以前して、これは私がシャルル=アンリ・サンソンという人間を処刑人としてアサシンクラスで召喚したのに先生呼びなんて傲慢じゃないかという思いからだったんだけど、やっぱり私は第一スキルが処刑人A++で宝具がギロチンの処刑人シャルル=アンリ・サンソンが好きだなあと心底思ったのでこれからも先生呼びはしないと思いました。これは私個人の考えで他者の呼称にあれこれ言う気はないです。
あとこれは完全に蛇足なんだけど、サンソンにセイレムの記憶はないけどロビンは彼の選択を見届けて、だからちょっと態度が違って冗談とか言うんだけど、サンソンはプロローグのサンソンのまま=サンソンが冗談に冗談で返したのは元々の彼の性格っていうのがあまりに可愛くて顔を覆ったんだよな……私が2年間好きだったサーヴァントこんなにもかわいい……
私は正直FGOにおけるあまりのサンソンの扱いの悪さにもう殆ど期待することをやめてしまっていて、だから今回のセイレムはただひたすらに「シャルル=アンリ・サンソンがシャルル=アンリ・サンソンとして書かれること」だけを願っていた。それが全て叶った。正直ここまでシャルル=アンリ・サンソンを書ききるとは思ってなかった。最高でした。有難うライター。口座教えてくれ。
叶うなら、消えてしまったセイレムに眠るあの人の墓に、赤いゼラニウムを供えたかったなあというのが、私のクリア後最初の感想でした。