シヴィルウォー:「キャプテンアメリカ」が何故ここまで本国アメリカで人気があるかの背景が重要。
トニーは賠償責任は少なくとも持っている、キャップのカリスマ性の理由が解らない、私情に走った暴走という意見は非常にナンセンスだと思われる。
アメリカは移民の国であり、奴隷制度の廃止による南北戦争(シヴィルウォー)も経て(南部はまだ白人至上主義の色濃い地域も多いものの)「自由意思」を理想に掲げる愛国精神の強い国である。
幼児ですら大統領選に興奮し、小学生の時に歴代大統領の中で誰が好きかというレポートが宿題で出されて嬉々としてやった記憶が私にもあります。
(因みに北東部オハイオ州在住だったので奴隷制を撤廃しようとした4代目大統領リンカーンの人気は圧倒的)
小・中学生ですらも「民主党のあの政策は…」と論議する程度に、大統領は国の「自由と平等の象徴のカリスマ」と言えます。
故に「キャプテン・アメリカ」という、もろ「愛国精神への象徴」が「正義」「圧倒的なカリスマ」として描かれるのは当然であり。
戦争を勝利に導いた英雄として語り継がれ、博物館まで建設されているとあれば、子供のころからその伝説を聞いて育ってきた環境のアベンジャーズの面々がキャプテンを尊敬し、古き良き「強いアメリカ」への憧憬を感じているのではないかと思います。
冷戦の名残でアメリカ映画は取り敢えず、すぐロシアを敵にしたがる(笑)のですが、ブラックウィドウがきちんと良心的なキャラクターとして描かれている事に好感を持てます。
(※ユダヤ移民も多い国なので、ドイツもすぐ敵キャラとして登場しがち。)
訴訟大国アメリカ(各州によって法律が異なり、弁護士の資格を持つ人数が凄まじい)で生まれ育ち、金銭で解決できない(賠償しただけでは遺族の悲しみや怒りでは解決できない)という事態を「ウルトロン」のソコヴィアでの一件でトニーも痛感したはず。
国際弁護士ともなると様々な政治的思想に従わないといけない立場に追い込まれやすく苦しい、という話もよく聞きます。
科学者としてのエゴから生み出てしまった「ウルトロン」は、ヴィクター・フランケンシュタイン博士とクリーチャーの関係にも似ているのではないでしょうか。
ワンダ(スカーレット・ウィッチ)の力の制御ミスで11人の犠牲者が出たからというのは国がアベンジャーズに介入する為の言い訳に過ぎないと思われます。
もしあそこでワンダが爆弾を宙に巻き上げずにキャップが死ねば、それ以上の犠牲者は免れなかった。
「1人を救うために、数十人犠牲にする必要があったのか」というよくある議論に通じ、ではどう行動すべきだったかの「正解」はない。
しかしここぞとばかりに「ワンダの力が未熟だったから」「国の介入が必要だったのだ」と、ほらみろとばかりにマスメディアにスケープゴートにされてしまった。
幼い頃にその力故に差別を受けてきた若いワンダに、リーダーである自分一瞬でも油断してしまった為に「人が死んだ」という負荷を負わせてしまった事をキャップも悔いた。
キャップは「国を護りたい」という誰よりも強い愛国心と信念を曲げず、個々の「自由意思」を尊重したいという気持ちがある。「起きた出来事への償いは誰もできない。無論、国連ですらも。」等という現実は痛い程に解っているはず。
だからこそ政治に利用される恐れを回避するべきであり、自身で選択し行動を起こした本人たちが個々で責任は持つべきだと判断。国連の介入は承服できなかった。
トニーはその昔武器商人としての過去やウルトロンの一件からの罪悪感からも、自分の信念を貫く事へのリスクを個人で償いきれるものではないと解っているからこそ、国連の介入を受け入れるべきだと冷静に判断した。
これは決して「何かあった時には国に補償して貰おう」等という責任転換ではない。
愛国心や信念の理想論のみで動いてしまえば、次こそ国はおろか、世界の倒壊を招く事態も免れないかもしれない。
「キレイごとだけで国は守れない」という、実に現代的で合理的で冷静な判断と言えるだろう。
つまりシヴィルウォーは「どちらが正しい」「どちらかが無責任だ」という話ではない。
それをキャップもトニーもお互い解っているし、お互いの立場上選ばざるを得ない選択肢を選んだ。
新旧時代が生み出したヒーローが同じ理想を目指した故の避けられなかった葛藤だったのかもしれない。
因みに「キャプテン・アメリカ」の映画が子供心を擽る点はその圧倒的なカリスマを「昔は病気がちで細い、苛められ虐げられ差別を受けていた。それでも愛国精神が人一倍強い、仲間想いの青年」と描くところから始まります。
70年前に戦場で護れなかった親友のバッキーが洗脳を受けていたとはいえ犯罪者である事実は消えない。
しかし本人の意思で犯罪に手を染めた訳では無いので、親友が国に裁かれ殺される事は許せない。
最後に冷凍睡眠を選んだのはバッキ―なりの償いであり、スティーブへの優しさなのだと思います。
同じ「失う」でも物理的に死んではおらず、本人が望まなかった犯罪に対して「戦犯」として裁かれる事も無いから。
一瞬で失った淡い恋(ペギー)もこの世を去り。
1人の愛国心の強い「スティーブ・ロジャーズ」というアメリカ人青年を知る者はもういない。
それでも国を護る者は、いつか必要になる。
「キャプテン・アメリカ」は存在し続ける必要がある。
だから現代のヒーローであるトニーに「必要になれば呼んでくれ」と連絡手段を残した。
これが、次にどう繋がるのか。
続編が楽しみです!