ゆらぎの神話・アリュージョニスト・アリスピAdvent Calendar 2016(http://www.adventar.org/calendars/1766)への参加コンテンツです。最近シナモリアキラをやめた人へのインタビュー記録となります。(本文リンク先)
取材場所である喫茶店に現れたコート姿の男性は清潔感があり、気弱そうだが好感の持てる、真面目そうな容姿をしていた。
−−本日はインタビューに応じていただいてありがとうございます。
男性:よろしくお願いします。
−−早速ですが、まずはシナモリアキラになったきっかけを教えていただけますか。
男性:サイバーカラテ道場のコミュニティにあった人気トピックの「シナモリアキラ診断」ですね。かなりのユーザーが自分とシナモリアキラを結びつけるきっかけになったと聞いています。あんな診断を真に受けるやつはいないだろう、とみんな言っていますが、なんだかんだで診断自体は受けていたりして。「あ、私にもシナモリアキラ性があるのか」みたいな。
−−シナモリアキラになって、良かったこと、悪かったことを教えてください。
男性:即物的ですが、強くはなりましたね。戦術的なフィードバックのほかにも、文脈面の強さっていうか、状況がエピソードにハマると勝てる、みたいな感じで。ランキングはかなり上まで行きました。三桁前半くらいかな。一方で、野試合で命を取りに来る相手と当たることが増えたのはきつかったですね。私のスタイルは命のやり取りをするのには向いてないので。
−−そのプレッシャーで、最終的にやめることになった?
男性:それは違うかな。もちろん死にかけたことは何度もありますが、そのへんはサイバーカラテユーザーの宿命なので、直接的なきっかけではありません。むしろ逆というか。
−−死にかけなくなったのが問題?
男性:シナモリアキラは原理的に不滅なんです。シナモリアキラは全員がシナモリアキラで、シナモリアキラ全員の、非シナモリアキラ的な部分もシナモリアキラ化していく。自我が奪われてしまうとかではないけど、もともと持っていた私の人生もまたシナモリアキラであると解釈されていく。裏を返せば、シナモリアキラ的でないことこそがシナモリアキラ的であるという理屈がありまして…あ、大丈夫ですか?
−−なんとか付いていってます。続けてください。
男性:シナモリアキラそれ自体は何も持っていない、という解釈がメジャーなんです。死にかけるというのは命すら奪われつつあると言うことで、きわめてシナモリアキラ的であると言えます。一方シナモリアキラは不死なので、死にません。死にかけるほど死ななくなる。これがほぼすべての状況であてはまります。
−−納得できるようで煙にまかれたような理屈ですね。
男性:そう思います。あと、応用的には炎上に強くなります。私なんかは褒められた人生を送っているわけではありませんから、アストラルネットとかで罵倒されることもある。戦闘スタイルへの低評価も、まあ多いほうです。でもそれは、総体としてのシナモリアキラに向けられた言葉になるので、ダメージはほとんどない。罵倒が盛り上がれば、逆にシナモリアキラがミーム化した部分を取り入れるようになったりしてね。「マジかよシナモリアキラ最低だな」なんて、褒め言葉と受け取っていいくらいで。居心地は良かったですよ。結局最後にはこれが決め手になったんですがね。
−−居心地が良いのが逆にきつい、というのは最近よく聞きますね。
男性:杖や使い魔が強い人はそれで更に強くなれるんですけど、私はあいにく邪視ばかりが強くて。冷たい目で見られてこその人生だというのを改めて自覚してしまって…まあ、やめてしまいました。シナモリアキラであることによって得られるメリットに耐え切れなかったんです。
−−シナモリアキラをやめた今、何か思うことはありますか。
男性:シナモリアキラは強い。というか、負けづらい。それは間違いないです。今は以前よりもシナモリアキラ認定基準が緩くなってるらしいし、上を目指すならシナモリアキラになるのが手っ取り早いと言っていいと思います。低ランクでも、シナモリアキラというだけでやりづらさがありますから。「女王」の目につくほど派手に順位を上げなければデメリットもないでしょう。私がやめたときも呪殺とかはなかったし、サイバーカラテ道場から追放されたりもしない。ユーザー名についていた【シナモリアキラ】が消えたくらいです。ランキングもだいたい元通りですね。
−−ありがとうございました。差し支えなければ、最後にユーザー名を教えてくれますか。
男性:構いませんよ。理不尽な状況には理不尽な脈絡を、その外套は皮、いつでも陰部を極限露出。サイバーカラテ道場ランキング492位、ユーザーID――「全裸中年男性」
彼は宣名と同時にコートを脱ぎ捨て、光り輝きながら丁寧に一礼すると自分の分のコーヒー代を支払って店を去っていった。白昼の喫茶店は露出が許されるような場所ではない。だが、彼が視界から消えるまでは誰も動かなかったし、同席していた筆者がその後厄介ごとに巻き込まれるようなこともなかった。以上がインタビューの顛末である。